操縦室内雑音の周波数特性は加重雑音のそれと類似し、白色雑音と比較すると低周波数域の出力が高く、高周波数域ほど出力は低かった。いずれの雑音負荷時にも、S/N比の低下に伴い明瞭度は低下した。操縦室内雑音負荷時と加重雑音負荷時の語音明瞭度は、S/N比の低下によりほぼ等しい低下傾向を示した。一方、白色雑音負荷時の明瞭度は、同じS/N比で比較すると加重雑音や操縦室内雑音に比べてより低値であった。白色雑音は高周波数域での遮蔽効果が強く、語音を構成する音素のうち、特に子音の聴取をより強く障害したことが明瞭度低下につながったものと考えられた。また負荷雑音の種類にかかわらず、S/N比の低下に伴い、英語語音明瞭度のそれぞれの被験者間の格差は拡大する傾向が見られた。これはS/N比の低下により、雑音で遮蔽された音素を前後関係から補足する能力の個人差が顕著となった結果であると考えられた。
引き続き、騒音下における日本人の英語語音聴取特性についての定量的評価方法の開発と共に、飛行機種による操縦室内雑音の差異についての検討を行っている。
本研究の結果より、B-767機操縦室内雑音下の英語語音明瞭度の測定は、加重雑音を代用することで簡易的に行える可能性が示唆された。航空機乗員の医学適性検査において、日本語の語音聴力検査に加え、加重雑音負荷時の英語単音節語音聴取を行うことで、操縦室内業務の実体に則した簡便な騒音下の英語語音明瞭度のスクリーニングが可能であると考えられた。
1. はじめに
日本人が就業する職場においても、情報伝達手段として英語が用いられることが少なくない。航空機乗員もそのひとつで、こうした職業において作業従事者間でどのように英語の語音の聴取が行われているかという点に着目し、正常聴力の日本人に対し英語の語音聴力検査を行ってきた。昨年度の研究では、日本人における英語の語音聴取域値は日本語と比較して15dB程度高く、防音室内のようなS/N比の高い条件下においても語音弁別能に個人間のばらつきが見られることがわかった。