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その夜夫と夜遅くまで、彼を引き取ることについて、今後いろいろ起こるであろうことを、じっくり話し合いました。園長に彼を引き取って学校に行かせたい、と申し出ました。園長は喜んで、日本赤十字を通して「国連難民高等弁務官」宛てに彼の日本定住許可申請書を提出してくれました。

4ヵ月が過ぎ、ようやく定住許可が下り、園の皆さんの暖かい、少し羨望の混ざった、さよならパーティに送られて我が家に落ち着くことになりました。

私には子育ての経験が全くありません。いよいよ引き取ると決まってから、彼の一生を左右する今後の育て方、いろいろ考えてみました。ああもしよう、こうもしよう、思いは一ぱいありますが、何も具体的な事は出てきません。自然体でありのまま、愛情をこめて接し、安心して勉強できる環境を作ってやろう。すでに自立している彼は、きっと立派な少年になるだろうと考えました。

町の教育委員会に入学のお願いに行き、その日のうちに中学校の二人の先生が面接に出向いてこられ、翌日から一年生として通学することができました。

彼の今までの環境は、丁度日本の終戦の混乱期と同じか、それ以上に悪く、生きることが精一杯で、静かに本を読むことさえできなかったのかも知れません。

 

 

 

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