日本財団 図書館


それは、冬のある朝のこと、いつものように、5時半の目覚しの合図で起き出す私の気配に、一緒に起き出したNYは、冷え切った居間のドアを開け、真っ先にストーブの前に座り込む。そして、次々とお兄ちゃんやお姉ちゃん達が起き出してきても、1番に陣取っているNYは、一向にどくつもりなどなく、それどころか、誰もストーブに近づかせまいと威嚇さえする始末である。それで、とうとう、お兄ちゃんたちに、小突かれて押し出されたときの顛末を、急に、昨日のことのように話し出したのである。

でも、そんな一日の始まりは、時たまのことではなく、テレビのチャンネル争い、場所や椅子の取り合い等々、たちまち、彼が、火を吐く怪獣に変身して、大荒れに荒れ出す状況は日常的にある。こうなると、彼の神経は針ネズミのように逆立ち、食卓では、傍らのだれかれに「あっち行け」と突っ掛かかったり、鳴りを潜めて事の成り行きを見守っているだけでも、「見るな」「聞くな」と、地団駄を踏むありさまで、こんな彼をなだめようとすれば、かえって、火に油を注ぐようなものなので、自分でも、持て余しているに違いない彼の感情の嵐が過ぎ去るのを、ただただ待つしかない。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION