小正月を過ぎると、寒さも一段と厳しくなる。風花が舞っていた夜、「今夜は雪になるかもしれないから、車のチェーンの用意を忘れるな」と、夫はA子に言った。晩秋の休みの日に、夫は雪のときにA子が困らないようにと、チェーンがまけるように手取り足取り教えてあった。翌朝の早番勤務に支障がないように、A子は玄関にチェーンの用意をして床についた。夜中、雪の積もり具合を見に起きた夫は、そっと外に出て、A子の車にチェーンを巻き、床に入った。私はA子の寝坊を案じて、A子が早番の朝は目を覚ましている。早朝、A子の雪を踏む音がして、間もなく出かけていった。朝玄関へ行くとA子の感謝の置手紙がある。夕方早く帰宅したA子は、夫がどこにいるか大声で叫び、「今朝起きてみたらチェーンがないのでびっくりしちゃった。車の所に行ったらちゃんとしてあったのでとっても嬉しかった。ありがとうね」と言った。声がふるえ、両手で涙をぬぐっていたA子であった。
愛された思いの蓄積が、A子にとってどんなに大切なことか。夫の、「俺たちは子どもたちのよい思い出メーカーになるんだ」という言葉をかみしめた日であった。