日本財団 図書館


3年近くの間、3日にあげずかかってきた父からの脅迫はA子が意見したその夜以来、ぷっつりと切れた。のびていく子どもたちにはかなわないと思ったかのように。

(8) A子の進路

A子の生い立ちを思えば、私たちの家族が理想の姿に映ったのも無理はない。進路の話をすると決まって、「先生の家族のように仲良く暮らしたい、結婚するなら横堀先生(夫のこと)のようなやさしい人としたいんだ。そういう人がいなかったら結婚したくない」とも言った。だからどうしても高校に行きたいというのであった。A子の成績では、公立高校は到底無理であった。女子教育に力を注いでいる私立高校に目標を定め、私は毎夜机に向かうA子のそばで過ごし始めた。聞く話では、「あの高校は費用がかかる」ということだったが、A子の力ではそこしかなく、私たちは「自分の子どもだから」と言い通した。卒業にたどり着くまでの3年間は、「親」も「子」もともに苦労した年月となった。宿題をこなすこと、教材の準備、理解不足を補うこと、すべてにわたり助けを必要とした。間もなく卒業だね、と話していた折、再び進路の話になった。A子は製造の分野で働きたいというので、それなら栄養士の資格を得た方がよいのでは、と勧めたが、「もう勉強はしたくない」と言い、学校の計らいもあって就職が決定した。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION