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私があるとき「何か食べたいものがある?」と聞くと、「赤いたらこの入ったおかゆ」と4人がてんでに応えた。私はすぐにたらこを買ってきて、作って食べさせた。今でもたらこを見ると、4人の顔が映る。

我が家にきて間もなくA子は誕生日を迎えた。私は紺のTシャツに文房具、そして人形を用意して誕生祝いをした。ピアノに合わせて「ハッピーバースデー」を歌うと、A子の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。A子は「こんな嬉しいことは生まれて初めてだ」と、何度も同じ言葉をくり返した。そして人形を手にした途端、「あのね、学校の友達みんなリカちゃん人形持っていたんだけど、私だけなかったんだ。他にもいっぱいほしいものあったけど、買ってくれなかったんだ。リカちゃん人形だけはどうしても我慢できなかった。だけど我慢させられちゃったんだ」と、A子は堰を切ったように話し続けた。私は、A子の満たされないままあいている穴を、何らかの形でできるだけ埋めてやりたいと思い、子育てを続けた。そして、後にきっとこの穴のために大変な思いをさせられることが起こるだろうと、半ば覚悟したのであった。父との悲しい思い出がつきないA子は、この家に来て本当によかったと鼻を真っ赤にして涙を流す。

 

 

 

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