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子どもを電話に出せ、と叫び、一度受話器を置いても何度もかけ続け、閉口した。「パパが来ると本当に殺しにかかる。だから本当にこわい」と言って、子どもたちは泣いた。電話は2日に1回は必ずくる。子どもも私たちも相当な脅迫を受け続けた。そこで地元や近くの市の警察に連絡しておき、家の中の電話もすぐ通報できるよう数を増やし、万全を期して地下室にも設置し、子どもたちを守った。子どもたちの運動靴は台所口にまわされ、いつでも逃げられるように外向きになっていた。そのかわいい運動靴が、今でも鮮やかに私の目に残っている。こうして夫とともに「本当にみんなを守るよ」と心から子どもたちに誓った夜から、子どもたちは、ようやく安心して寝床に入ったのだった。

(6) 赤いたらこの思い出とリカちゃん人形

めずらしく父から電話がかかってこない夕べは、子どもたちからにぎやかに父の話が始まることが多かった。「ひと組しかない布団にパパは一人でねて、夜中に起きるとお母さんにたらこの入ったおかゆを作れと言って、お母さんがないと言うとひどく怒る。仕方なくお母さんは新宿まで電車に乗って買いに行った」とはっきり話す子どもたちの脳裏にやきついて消えないたらこの思い出。

 

 

 

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