私が思わず、「本当かい?」と問い返すと、A子は再び同じ言葉をくり返したのであった。するとその言葉を隣の部屋で聞いていた高校生が、「三千代先生(筆者のこと)、うかばれたねー」と、負けずに大きな声で言い、部屋からとび出してきた。私がお茶を入れてあげるというのもふりきり、A子は台所に行き思い切り蛇口をひねり、実においしそうにのどを鳴らして水を飲んだのであった。
ひと息ついた後、楽しかったハネムーンの模様を夫と私に聞かせたA子は、「あたし、本当によかった17年でした。迷惑かけてすみませんでした」と、頬を赤らめて言い、しばらく過ごすと、山に近い町、新郎の待つ家へと車を走らせ、帰っていったのであった。
(3) 最初に迎えた里子
17年前のその日は、朝からよく晴れて、寒暖計はとうに30度を越し、玄関前の朝顔は昼前からいくつも下を向きかけていた。私は、昨夜作りおいたジュースはよく冷えただろうか、お菓子は何が好きだろうか、などと思いながら、我が家にとってはじめての里子が到着するのを待っていた。