この子だって心では優しい父と母を求めているのです。
私は子供を抱きしめながら、家に連れて帰りました。「少し年は多いけど、今日からお母さんだよ」大きな部屋に通し、おもちゃをいっばい目の前に置いてあげました。ところがほかの子供ならすぐに飛びついて遊び始めるのに、この子は手を掛けようともしません。あとで父親から聞いたところでは、おもちゃなど買ってあげたこともないといいます。自分はパチンコで遊んでばかりいて、子供はいつも車の中に置きっぱなしにしていたというのだから、腹立たしくなります。私は私なりに、幼児向けの本を買ってきて、毎日のように読んであげました。私が43歳の頃だったと思います。子供を背中におんぶしてミシンを踏み、買い物もいつも二人でした。
慌ただしい毎日が過ぎ、子供は小学校へ入学、私もまたPTAとして学校へ行けるようになりました。
私は父親には内緒で、まだ若い子供の母親に会いに行きました。「たとえ別れた子供でも、どうか今度の参観日には来てください」と願い出ました。子供はほかの子たちから親なし子などと呼ばれていたので、この子には本当の親がいるのよ、と生徒たちにわからせたかったのです。