「子供を捨てて自分だけが新しい生活をしているひどい母親なのだから、捜しに行くことはないよ」と私は言っていたのですが、30歳近くになっても、J子ちゃんの心の中にはいつでも母親がいたのです。「お母さん、この子のために早く帰ってあげてください」と願わずにはいられません。
それから後J子ちゃんと一緒に家で生活していた男の子が、高校を卒業しようとしています。
私は児童相談所に呼ばれ、子供の父親に会いました。父親は、私が引き取るとも何とも言わないうちから「置いていくから頼むぞ」と、私に2歳になる子供を預けて帰ってしまったのです。ひどい男だな、と思いました。父親には兄弟がたくさんいるのに、だれ一人面倒を見てくれないというのです。今日こそは断ろうと児童相談所へ行っても、私にしがみついて離れようとしない子供を見ると、つい断れなくなってしまいます。
この時から子供は、私をお母さんと呼ぶようになりました。書類を見ると、実の母親とは10日前に別れていました。両親から見放された子供の気持ちが、この子の親に少しでもわかるのでしょうか。