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再び連れ帰っても同じことの繰り返しです。児童相談所のほうでは、もう里子ではないから関係がないというけれど、この子は心に問題を抱えていて、母親には捨てられ父親からは追い出され、もう帰るところもなければだれも面倒を見てくれる人もいないのです。私は家に入れてあげることにしました。

知恵遅れとはいっても、中学校を卒業した以上は何かできるはずだと思い、内職をさせることにしましたが、まったくできません。ミシンを踏むことも、草むしりさえもできず、ただ人形で遊んでいるだけです。このような子供には仲間が必要だと判断し、私は市役所へ行って、なるべく早く施設へ入れてくれるよう頼みました。

その2年後、市役所からの迎えの車が来ました。見送りのために私も一緒に乗ると、子供は「もう悪いことしないから、連れて帰って!」と泣き叫びました。その声は子供と別れたあとも、いつまでも私の耳元に残っていました。

そして今その子は28歳になり、施設の手伝いをして頑張っています。私はときどき施設へ行って、その仕事ぶりを見せてもらっています。「J子ちゃん、ごめんね。決してあなたのことを見捨てたわけじゃないのよ。あなたが一人前になるためには、ほかの子供たちと一緒になって働くのが一番よかったのよ」と言ったら、喜んでくれました。

 

 

 

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