図25]祭壇前の新郎新婦。儀礼の場で女性が左に立つのは、婚札のときだけだ。
こうした順序を教え導くのも総関の役目。まだ、年長のものが年少者に教えながら、ゆっくりこうした秩序を教えていく絶好の機会でもある。上位である奥に礼を受けるべき人が、手前には礼をすべき人が向き合うこと。そして、年長者が優位に立つべきこと。男女には厳然たる差があること。これらが反復しておこなわれる儀式によって学ばれていく。
この頃花嫁はというと、朝から夕方までかかって、ずっと化粧をしている。髪を結い上げ、花をさし、そして、どれもこれも真紅な衣装をつける。下着からウエディングドレスまで四枚がさねの厚着をするのが決まりだ。最後の仕上げに魔よけをつけると、彼女の門出だ。ベッドの上で紅い靴をはいた彼女を兄が抱えて車まで運ぶ。実家の土を踏んで嫁に出ると、実家の財も婚家に持ち去ってしまうという、古くからの言い伝えのせいだという。新婦の横に新郎が乗り込んで、新居へのパレードが始まる。
パレードは、世間へのお披露目でもあるから、爆竹を打ならし、楽団も賑やかに音楽をかきならし、賑やかな通りを選んで進んでいく。そして、行きと戻りで同じ道をなるべくとおらないですむように、ルートが決定されているのだ。彼らの新生活が後戻りしないように。
新郎新婦の乗った車が新居に近付くと、一団の青年たちが駆け寄ってくる。そして、車が進めないように妨害するのだ。かれらは、新郎の友人たち。ひと悶着を演じながら、じわりじわりと新郎の家に通じる曲り角へ到着する。そこには角でひときわ大きく鳴らされた爆竹で、花嫁の到着を知った列席者が出迎えに出ている。花嫁は、土を踏むことが許されないから、新郎が彼女を抱きかかえて車から降りてくると、例の青年たちが二人を押し戻そうとする。新郎は、花嫁を抱えて強行突破を試みるが、怒号も飛び交う、行きつ戻りつの状態が続く。隙をみて新郎は、彼女を抱いて猛ダッシュで新居のベッドに新婦を運ぶ。可哀相な新郎は、死ぬ程息を切らさなければ花嫁を家に迎えることはできない。新郎が水を飲んで息を整えているあいだ、花嫁は、化粧直しに余念がない。といっても自分で手を動かすことはなく、実家からついてきた四人の伴娘(花嫁の身の回りの世話係で、親友がつとめるのが普通だ)がしてやるのだ。さて、花嫁の衣装も四枚重ねだったことを思い出してほしい。中国では、一般に奇数が吉として好んで使われるのに、こうも四という数字が出てくるのはなぜかというと、二人の人間がともに家庭を作る門出には、普段とは逆に偶数が尊ばれるからだ。「喜喜」も二つの喜を重ねて、新しい夫婦の誕生を祝っているのだ。(図14]〜25])