儀式の当事者たちは、儀式の中で、それぞれの役割を演じている。婚礼も葬儀も、パレードをともなうので、一連の儀式の舞台は、住まいの中だけではおさまらない。まちも、パレードの通り過ぎるほんのいっとき、花嫁と花婿の、そして死者と残された家族のための舞台となるのである。さて今回は、儀式に反映される空間に関する秩序に着目しながら、一九九八年九月におこなわれた婚礼の過程を通観していこう。(図1])
◎新婚の家◎
婚礼の数日前、一通の招待状が届けられた。紅色の紙片に金の筆文宇で書かれた、とても簡単なものだが、結婚式のおめでたい気分が伝わってくる。時計の修理店を営むH氏の次男が結婚するのだ。彼の家は、城壁外の新興住宅地にある。ごく最近建てられたばかりの真新しい住宅は、中庭を挟んで、前後(南北)に一棟ずつ建物が建てられている。正房は、一庁四室というタイプで、東奥の部屋にはH氏の妻の母親が住み、東手前をH氏夫妻が使う。そして、これから新婚生活を送ろうとする次男夫婦のために、西の二室が整とんされている。すでに結婚している彼の長男と、未婚の三男は、別の場所に暮らしている。コックの修行中である三男は、他の七人の仲間と三日三晩続く祝宴の料理を作ることになる。南側の棟は、倉庫やトイレにあてられている。(図2])
◎喜びを演じる人びと◎
婚礼の主役は、もちろん花嫁と花婿だが、その他にも多くの人がそれぞれの役割をにない、喜事の脇役を演じる。
婚礼の前日には、親族が続々集ってきて、婚礼準備の手伝いを始める。H氏の叔父、叔母、二組の弟夫婦たち、その娘や息子。H氏の妻側の親類など十数名にのぼる人数だ。
新郎の親友たちもかけつけて、婚礼行列の先頭に立って、お祝い事にはつきものの爆竹を鳴らす係りをかってでる。
総関とよばれる、儀式や祝宴を取り仕切る二人の男性もやってくる。総関には、教養があり、葬儀、婚礼を問わず儀式の進行に関する深い知識をもつことで一目置かれている人が頼まれる。彼らは、無償で三日間にわたる婚礼の一切を取り仕切る。媒人あるいは介紹人と呼ばれる仲人の働きをする男性も重要な参加者の一人だ。現代の日本と同じように、恋愛で結ばれたカップルも、婚礼のときには仲人をたてるのが一般的な傾向である。婚礼の日取りは、風水先生に見てもらうが、婚礼そのものには姿を見せない。婚礼行列を運ぶ運転手も呼ばれている。たいてい友人や知り合いに頼むから、基本的には、金銭の授受は発生しないようだ。使われる車は、アウディや紅旗などの高級車が中心だ。