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養蚕神の幣束福生市永昌院に伝わる蚕影山の幣束……佐治靖

 

◎蚕影山信仰の受容と展開◎

 

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金色姫蚕影山幣束

 

東京都福生市、ここに蚕影山永昌院(こかげさんえいしょういん)という寺院がある。現在の住職桑林盛海(くわばやしせいかい)氏で二十三代となる。檀家や墓地を持たず、不動明王を本尊とし、もっぱら呪術的色彩をもつ祈祷を中心とする祈願寺である。

かつて多摩地方で養蚕が盛んであった頃、養蚕が始まる五月になると、永昌院の住職は多摩地方の養蚕農家をまわり、「蚕が当たるように」と繭の豊作祈願の祈祷をし幣束を切って歩いたという。その幣束は「金色姫蚕影山幣束(こんじきひめこかげさんへいそく)」といい、独特な色使いそして独特な造形を有している。

多摩地方における養蚕の一つの転機は、近世末に遡る。安政六(一八五九)年の横浜港の開港にともない、貿易産品として絹糸の輸出が次第に盛んになると、多摩地方は飼育環境・輸送経路といった立地的な好条件も重なって養蚕農家が増加する。それにともない繭の生産量も急増し、養蚕は家の経済を支える重要な生産活動として隆盛をきわめていく。

しかし、養蚕がこうした近代の花形産業としての色彩を強めていく中で、蚕という生きものを対象とし、天候をはじめその時々の自然環境に大きく左右される飼育の難しさと不安は、<近代化の象徴>といった蚕糸業の持つ趣とは相反して、人びとを伝統的な民間信仰の領域―養蚕信仰―ヘと駆り立てていった。

 

 

 

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