県南部地域は神職が作る正月行事の伝承切紙が少ないといわれる地域であるが、今後、神社だけではなく、寺院への調査も重要な課題である。ちなみに、亘理郡亘理町の天台宗寺院である法道院で現在頒布している御幣の名称をいくつか列記する。水神、明神、釜神、大神宮、三宝荒神、雷神、愛染、諸神、年徳神、恵比須、大黒天、天照大神宮、疱瘡神、八幡大神宮、蛇レイ、馬頭、山神、倉、毘沙門天、不動尊、宇賀神、厩神、弁財天、薬師などである。同寺院では明治時代に用いていた頒布用の覚書が保存されており、その中には権現、古峯、秋葉、松尾、鹿島、熊野、虚空蔵など現在では作られていない御幣の名称が散見される。現在までの信仰の移り変わりや、民間信仰の多様性を示す貴重な資料といえよう。
正月行事は多くの神々を迎え祀る最も大きな年中行事であり、そのため、多様な御幣が用いられてきた。祀る家々にとっては必ずしもその信仰対象が明確ではないという特徴もみられるが、いずれ、民間信仰の多様性、複雑さを正月行事の御幣は如実に物語っている。また、世代交代や家の改築、分家の出現等により、御幣の祀り方に変化もみられる。これは作り手も同様で、移り変わる様を今後、見定めていくことも必要であろう。
最後になりましたが、本稿をまとめるにあたり、ご協力いただきました関係各位に厚く御礼申し上げます。
<仙台市歴史民俗資料館学芸員>
◎掲載写真の*は宮城県神社庁提供。その他は仙台市歴史民俗資料館撮影)