年神棚には松と竹が表現された年徳神(としとくじん)の御幣を数本を組み合わせて供える。オカミの神棚や年神棚には玉紙を飾り、飯や重ね餅などの供えものをする。なお、この地方の玉紙には恵比寿や大黒をはじめ、宝船、蕪などがあざやかに描かれ、正月を迎える神棚を華やかに彩っている。
元朝参りには廻幣(まわしへい)や小幣(こぬさ)と呼ばれる御幣を奉納しながら早馬神社やその他の神社、仏堂に参拝する。一月四日には仏壇の前に供えた御霊の御幣を取りはずす。当地には早馬神社が別当をつとめてきた八雲神社がある。一月七日の八雲神社の祭典にはこの御霊の御幣か赤の廻幣を持参して参拝し、すでに奉納されている御幣の中から一つを選び取り、帰宅後に自宅玄関に供えるのである(写真3])。このほか、木の伐り初めである一月六日の「初山行事」では、小幣などを木の根本に供えたり、一月一一日に行なわれる農作業の仕事始めを祝う儀礼、「ノハダデ」では畑に小幣を立てる。また、一月一二日の「山神の祭日」では山の神の小祠に参拝し廻幣を奉納する。一月一四日にはほとんどの正月飾りが取り外され、屋敷神に納められるものであった。
◎御幣の形態と特色◎
以上、早馬神社の事例を紹介した。神棚には切り透かしや紙注連の切紙が飾られ、屋敷の内外には御幣が供えられる。これらには、一年間の家内安全、豊漁、豊作を祈願する信仰的な意味が十分に感じられる。また、御幣に焦点をあてると、依り代としての性格も見いだせる。とりわけ、具象的な図柄をほどこした御幣は端的に神々を象徴している。このような御幣はすでに知られているように多様な形態が県内で広くみられ、民間信仰の多様性を物語っている。次には神職が作る御幣の具体例を紹介する。
1]県内で最も多くみられる御幣の図柄は俵のかたちである。