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越前・若狭における舞と神事の御幣……坂本育男

 

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日向神社(綱切り)と拝殿の柱に縛り付けてある御幣

 

越前は何かにつけて真宗門徒の地とされる。周囲が門徒ばかりだと、そうでない人も正月の注連縄や山の神に関心を持たないらしい。修験者たちも神仏分離の後では多くが神職に変わり、進んで標準的な神道の祭祀方式を受け入れ、普及させたのではないかとさえ思う。

越前に印象深い御幣があっただろうか、わたしはしばらく考え込んでしまった。

神業の大道具……最初に思い出した御幣は、丸岡町長畝(のうね)の日向(ひゅうが)神楽に使われるものだった。日向神楽は丸岡へ転封になった有馬氏が故地の日向延岡から伝えたものという。高千穂の神楽と同じように高天原の神話を内容にし、十数段の演目が演じられる。着色した紙で作ったさまざまな舞御幣が使われるが、各し地に見られるものだろう。それに比べると「注連(しめ)」で使われる御幣は際だっている。

日向神楽は単純化された動きや面が作り出す雰囲気が、見る人を引き込まずにおかないのだが、なぜか見学に来る人が少ない。そしてかなり大きなものにも関わらず、「注連」の御幣もほとんど注意を引かない。

神歌が「注連建てはここも高天の原也や集り給え万代の神」というごとく、この御幣は八百万の神々の依代である。二本が作られ、外に向けて拝殿の柱に荒縄で縛り付けてある。宵宮ではいくつもの演目が行われるのに、この御幣には照明もあたらず、翌日の午後、「注連」が演じられるときだけ欠くことのできない大道具になる。

 

 

 

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