【考察】ここに挙げた事例以外にも、島根県出雲地方、鳥取県の因幡、伯耆地方の荒神、島根県石見地方の大元神の祭祀には藁蛇が作られ、これに御幣を突き立てて神木に巻きつけるところが多い。先の例のように削る所作は、出雲地方、伯耆地方に多くみられるが、削る所作は厄を祓うとともに死を、幣を立て神木に巻くのは再生、復活の儀礼である。この藁蛇は大地(自然)の象徴であり、これに宿る神霊、祖霊をも含めて、そこに再生と復活をはかることは、同時に大地(自然)の復活をこころみることになる。この行事に参加する人々もまた、同じである。それは、神と自然と人との共生を願うものであり、そこには恐れと畏敬という二律背反のなかにみられる統合の論理が感得される。その媒介をなすものとして御幣が存在する。
<島根県立国際短大客員教授>
註
1]拙著『農耕文化の民俗学的研究』(岩田書院 一九九八年)四〇七〜四〇九頁
2]拙著 前掲に同じ。
3]拙著 前掲。一四八〜一六四頁
4]倉林正次『冬から春へ―祭祀文化の基層を探る―』(桜楓社 一九九二年)三一四〜三一七頁
5]拙著 前掲。九〜一六頁。
6]高見寛孝「山口県萩市の荒神信仰と地神信仰」続編『日本文化研究所紀要』八三号(国学院大学、一九九九年)
7]拙著 前掲。二一〇〜二二二頁。
佐野賢治編『納西族 彝族の民俗文化―民俗宗教の比較研究―』(勉誠出版 一九九九年)二七二〜二七八頁。