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12]波剪御幣。蝶型(扇)の右にある。これをすべて唐櫃に入れて船に乗せる(島根県古代文化センター提供)

 

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13]波剪御幣を手に神職と当屋が並ぶ(島根県八束郡美保関町)

 

【考察】地神申し(申しとは祭りのこと)に周りに四本の小幣を立てるところもあるが、その幣は先端を三角状になるように切り、やや複雑な切り込みを入れて作製したもので、長い幣串など平地の稲作にみられるものと趣きをやや異にする。この意味についてはのちの色彩からみる御幣の項にまとめて記している。

 

厄を祓い幸をよぶ御幣

厄を祓い清める儀礼はよくみられるが、そのときに用いられる祭具の主なるものは、御幣である。この御幣は、厄祓いとともに、これにより幸を招く意識も認められる。

海の祭り

【事例】島根県八束郡美保関町の青柴垣(おおふしがき)神事は諸手船(もろたぶね)神事とともに、地域共同による年令階梯的な要素をもみられる祭りとして知られているが、この神事で、海に浮かべた船に乘る神役の当屋、小忌人(おんど)とともに登場するのが、波剪(きり)御幣である。これは当日(四月七日)の二日前の午後、美保神社の宮司が別火、参籠に入り、清浄ななかに製作するもので、形は、普通の御幣の片側の長方形をなしている。(写真12])単純ななかに籠められた祈りの力により、霊験があるといわれ、この神事のみならず、火難、水難、風難、病難除けに、この御幣を受ける者が多いということから、このときに多く奉製(神社の使用語)されるのであろう。波剪御幣は唐櫃に納められ、これは神職が奉持して船に置かれる。神事については『自然と文化』二一号の拙稿を参照いただきたい。一般に、この御幣は、左右左と振って厄を祓うものといわれている。この神事と対をなす諸手船神事のなかでも、祭り宿にあたる会所(かいしょ)での儀礼に神役の当屋が、神職と並んでこの幣を持ち参列している(写真13])のも、同じ祓いの意からであろう。

 

 

 

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