このときに餅にとりつけたり、儀礼に関わる御幣は、先の穀霊信仰の例に挙げた姫ノ飯(い)神事と同じものである。(写真9])
ところが、松江市の西北の山地、秋鹿(あいか)町井神谷の大餅さんは、きわめて古態を伝える行事としていまに行われているが、その大餅の御幣は、竹を串に、山から採った葛の皮を梳くようにして垂らしたものであり、御幣の原型のひとつともみられるものである。(写真10])
【考察】均整のとれた白色の御幣は、水田管理と白い米、白日を重視する稲作文化の特色を示すものともいえる。そのなかにあって秋鹿の御幣は、山地から開けた稲作のあとを残している。
地神の祭り
大地に宿る神霊を斎き、これを祀る儀礼は山陰地方の西部、島根県鹿足郡津和野町とその周辺一帯から山口県萩市、長門市にわたりみられる。地神申しと称して、組や集落ごとに行なう。同県出雲地方、鳥取県伯耆地方でも土地の祭祀はみられるが、この地域では地主神とか荒神信仰に含まれている例が多い。
【事例】島根県鹿足郡六日市町高尻では「地神申し」と称して、春のはじめなどに、高さ五尺(一七〇センチ)のホノギ幣を田か畑に立て(写真11])豊穣と家内安全を祈る。秋にも立てるところがある。かつては津和野から盲僧が来て「地神経」を唱えて祈祷したという。