このような、山の神木に幣の数がやや少ないものの大幣を納める祭りに、同郡西郷町中村の大峯祭りがある。(写真5])
【事例】同県邑智郡、那賀郡一帯と大田市祖式村、多根町などの石見地方の山地一円に五年、七年ごとの周期で行われる大元祭祀は、大元神楽(おおもとかぐら)、大元舞いともいわれ、神事と芸能が、ひと続きの流れのなかに展開される、夜を徹して大がかりな地区共同の祭りであり、託宣を伴うなど特色のある内容となっている。今年(平成十一年)も邑智郡桜江町小田で行われたが、その原形は樹木に斎き祀る山ノ神信仰にある。(註2])
この神木に祀る地区開拓の祖神、作神、地主神、水神、金屋子神など、地区内の山に関わるあらゆる神霊を御幣と藁蛇にのせて神殿(こうどの)に迎え、ここで先の神々をあらためて祀り、地域の発展と豊穣を祈るのであるが、この神事のうち、特に重要と思われる儀礼は山勧請(やまかんじょう)、天蓋(てんがい)、綱貫(つなぬき)であり、五龍王もこのなかに入ろう。なかでも、山勧請は、注連主(しめぬし)いわれる斎主が、神殿に設けた元山に向って丁重に行う儀式であり、山に関わるあらゆる神霊を祭場に招く大元神楽の端緒をなすものである。