日本財団 図書館


土地爺は、集落や都市内部の一地区を掌握する神として廟にまつられたり、個別の住宅でもまつられる。(図1])

 

◎住宅建設◎

住宅の建設をおこなうときには、各種の儀礼がとりおこなわれる。主人と大工、そして看陰陽ともよばれる風水先生が参加者だ。

風水先生

住宅の建設にとって、風水先生がいなくては始まらない。平遥にも、一説には百人ともいわれる多くの風水先生がいるという。風水先生とひとくちにいっても、それぞれに得意分野があるようだ。日法といって、住宅の建設日程や結婚の日取りなどを決める方法に長けている人。形法といって、前号でとりあげたような住宅のプランを決定したり、さまざまな装置の方位を決定したりする方法を得意とする人もいる。人々は、その目的によって招く風水先生を決めている。

最近でこそ陰陽のマークを掲げて開業している風水先生も増えてきた。しかし、職業として風水を看ている人は、ほんのわずかだ。昔ながらの風水先生は、一子相伝で技術を伝え、他の子供たちは、風水に関する知識をうけつがない。基本的な生活は農業などで支えており、風水鑑定の報酬として金銭は受け取らないという。ただし、慣習的には風水先生を訪ねるときには果物や菓子をたずさえていくのが礼儀だ。お礼として食事や観劇などで歓待することもある。また、中国医学の医師や大工など易学に長けている人も風水を看たり、儀礼をとりしきったりするから「風水先生百人説」もあながち法螺ではないかもしれない。(図2]3])

 

054-1.gif

図2]形法の大家といわれる風水先生

すでに九十代も半ばのH氏。彼の技術は長男に引き継がれているが、現在もさかんに新・改築の相談にのったり、前号で紹介した風水楼をはじめとする各種の装置の設計をしている。写真は、新築時の儀礼に使うお札を描いているところである。このあと顧客が高級車でのりつけ芝居に連れ出した。

 

054-2.gif

図3]風水先生の看板

このような看板を出したり、チラシをまいて客引きをする風水先生も増えている。ちなみに、この写真の店を構える風水先生は、市販されている風水書を読んで独学で風水を学び、開業したそうだ。

 

儀礼の過程

さて、住宅建設のときにはどんな儀礼がおこなわれているのだろうか。残念ながら、実際の儀式を見ることができなかったから、大工を引退した五十代の男性に聞いた、基本的な儀式の流れを紹介しよう。

1起工…まずは、風水先生に工事開始の吉日を選んでもらう。起工前に「姜太公在此之諸神退位」または「姜太公在此之神位」と書いた赤い紙製の位牌を建設予定地に挿す。「姜太公という暴れ者の神がここに居るから、もろもろの神様よ、工事の完了まではよそへ行っていて下さい」という意味だ。焼香、叩頭して工事の無事を祈る。そして工事中は脇の壁や柱に挿して工事完了までそのままにしておく。(図4])

2上梁大吉…日本でいえば上棟式にあたるだろうか。めでたい言葉を書いた赤い紙を張った梁を柱にのせる。正午ごろおこなわれ儀式の最中には、爆竹が勢いよくはなたれる。また、集った人に飴が配られることもあるという。

3謝土…完成した住宅に家財道具を搬入する前に、まず工事の無事完了したことへの感謝と今後の家内安全を祈って土地神をまつる。儀式の前に、完成した住宅の中に四角いテーブルの祭壇をしつらえ、祭具一式を並べる。(図5]6])

祭具は、以下のとおりだ。まず、敷地内の土を椀に盛り、土地神の位牌を挿す。黄色い神に書かれた位牌には、「奉供土翁土母土子土孫之神位」と書かれている。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION