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播磨と瀬戸内海海の祭りと伝説の伝播……橘川真一

 

珍しい女性だけの祭りが室津(兵庫県揖保(いぼ)郡御津町)にある。賀茂神社の小五月祭りである。そこには古代から海を中心に開けてきた播磨の風土が濃厚に凝縮されているように思える。『播磨国風土記』のころから豊かな土地と温暖な気候で栄えた播磨は、瀬戸内海という海の道を核に、古代の大路であった山陽道や因幡街道など多くの陸の道、そして加古川を筆頭に六河川の舟運などの川の道によって、渡来の文化をはじめ都や出雲、吉備の文化まで取り入れた独自の高い文化を築き上げてきた。とくに、瀬戸内海はその窓口として文明を育んできたといえる。

室津は、奈良時代に渡来人といわれる高僧行基によって開かれた摂播五泊(港)の一つである。外国文化を受け入れる玄関口として栄えたものと考えられ、異文化交流と遊女の町として知られたのである。作家谷崎潤一郎の未完の大作『乱菊物語』は、戦乱の世界に咲いた類まれな美女「かげろう」と唐人の商人との交流、それに華麗な小五月祭りがからみあった壮大な物語を展開するのである。現在も港町に生き続けるこの祭りは、きらびやかな衣装を身に付けた少女たちが室君を真ん中に町を練り、海の祭りの息吹を伝える。

もう何年も前になるが、『乱菊物語』の舞台を追ったことがある。もう一つの舞台は、姫路から約十キロメートル沖合にある家島群島(兵庫県飾磨(しかま)郡家島町)である。

 

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室津の賀茂神社で行われる小五月祭り

 

谷崎はここで瀬戸内海を支配した海賊を登場させている。取材に訪れた時は家島神社の天神祭りが行われていた。ここでは陸の屋台に代わって海のダンジリ船(屋台舟)が海上を練る。海の祭り特有の、神を海の上から勧請したという古い祭りの形態が残されてきたものと思われるが、ここでは海の民の安全を祈る神事が混在しているようであった。祭りは、二艘の舟を繋ぎ合わせたダンジリ船二台が登場、大漁旗さながらの色彩豊かな幟を押し立てて海上を走る。船上に作られた舞台で女獅子、男獅子が奉納される。母なる瀬戸内海への祈りである。

これらに代表されるように、播磨の祭りは海の祭りが賑やかである。岩屋神社(明石市材木町)のオシャタカ舟も神を勧請する祭りである。神社縁起によると、成務天皇の十三年(二世紀頃)、淡路の神が『明石に住みたいので磐楠舟(いわくすぶね)(古代の舟)に乗って渡る』と告げた。人々が小舟で迎えに行くと、神舟六艘に神や宝物が乗ってやってきたというのである。神がお越しになったという明石の方言「おじゃったかなお」からオシャタカと名付けられたが、長さ一・五メートルの小舟を海上に投げながら進む神事は勇壮なものである。海神社(神戸市垂水区)、大避(おおさけ)神社(赤穂市坂越(さごし)の船渡御、松原八幡神社(姫路市白浜町)の灘のけんか祭り、魚吹(うすき)八幡神社(同市網干区)の提灯祭りなど、ほとばしる漁民のエネルギーが脈々と伝わってくる。

 

 

 

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