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◎土気の奉仕を司る八龍神社氏子祭◎

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曳行された御柱は掘られた穴に埋め建てられる。そしてつき固める根固めが行われる

 

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古い御柱を倒し撒去する「御柱休め」

 

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撒去された御柱は八龍神社に納められ「古御柱祭」が行われる

 

諏訪の昔語りでは、「御柱休め」の役を負う氏子が祀る八龍神社の神様は、「狐神」であり、一番位の高い正一位稲荷大明神一国一社信州稲荷の総社白狐稲荷の代理格の狐であったという。 陰陽五行思想では、狐はその体毛が黄色いことから、土気(大地)象徴の化身とされ、土徳を有する神とされた。

八龍様が上社祭神建御名方富命の孫神でありながら信州稲荷総社の白狐ギツネに次ぐナンバー二の狐神と語られるようになったのは、次のような理由からであろう。

先に述べたように、中金子八龍神社の氏子衆は、御柱を建てるに際して「穴掘り」、「穴埋め」そして「根固め」の奉仕をするのであり、これらの仕事は皆、「土」に関わるものである。このことは、山作衆の奉仕が皆「木」、つまり陰陽五行の「木気」に関わるものであると同時に、この社の氏子衆の奉仕は、「土気」に関わるものといえる。そして六年後に行われる「御柱休め」の奉仕において、八龍神社には八本の古い御柱が納められることになっているが、このとき「古御柱」は物理的にはすでに「廃物」「廃材」であり、陰陽五行思想に照らせば、朽ちたものは土に戻ることから「土気」といえる。この奉仕もやはり土気に関わるものであったのだ。

神域に建てられた御柱を、転倒損壊から守るのもこの社の神である。山本ひろ子さんによれば、伊勢神宮の心の御柱を、転倒損壊しないように守っているのは「八大龍王」であるという説が中世に出てきているという。さらに、心の御柱そのものが龍という説も垣間見えるという。(『諏訪市博物館研究紀要1』「伊勢の遷宮と心の御柱」)御柱曳き建ての際の「根固めの奉仕」は、正に土神としての八大龍王の行いそのものである。八龍神社の「八龍」もそのような思想から付けられたものだろう。

 

◎呪術の空間、中央・土気に位置する八龍神社◎

先述のように、土気の方位は中央に配されている。八本の土気となった古い御柱を、八龍神社に納める目的、それは中金子八龍神社の在る空間もまた「土気の場」であったからである。土気の作用は万物を土に環す腐敗、死の作用と、万物を土から生じ出す育成の作用の二面がある。万物は死して土に還ってこそ、再生生成が可能と考えられた。筆者は、図3]のように八龍神社は、陰陽五行思想における呪術としての「中央・土気」の空間であると考え、次のように推察した。

 

 

 

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