ラトマッチェンドラ[豊穣を運ぶ水孕みの娘]……弘理子
カトマンドゥ盆地の古くからの住民であるネワール族の祭り、マッチェンドラ祭は、天に向かって柱状に組み上げられ、緑の枝葉で覆われた巨大な山車を曳き、雨期の到来を願うものである。
首都カトマンドゥではセト(白)マッチェンドラを、その南に位置するパタン市ではラト(赤)マッチェンドラを祀る。特に四月上旬からおよそ二ヵ月間にわたって行われるラトマッチェンドラには、天と地を巡る壮大な<水>のドラマが見て取れる。
その中でマリニと呼ばれる家系の未婚の娘が、水の祭礼に重要な役割を果たしていることはあまり知られていない。
像を山車に乗せる日の前夜、マッチェンドラ寺院があるカトマンドゥ郊外のブンガマティ村から二カーラ(註1])離れたコトゥワルという小さな松林に、四日間断食をしたマリニの娘と僧侶、世話役のスワ、ジャジマーンと呼ばれる祭主らが集まる。
コトゥワルは、外界との境界にあたる。伝説では、マッチェンドラはその昔、インドのカーマッキャにあったヤクシャ(夜叉)国の王の六百人いた子供の末子であったが、カトマンドゥ盆地に十二年間続いた干ばつを救うために人間に連れてこられた。かわいい我が子を奪い返そうと、後を追ってきた母親や兄弟が攻撃を仕掛けてきた。