柱建立の三日前には、街の中心部にあるダッタトレーヤ寺院前の広場に引き出されたバイラブ神の山車を、バクタプル市の上町と下町の人々が綱を付けて引き合う。勝った方の町内では農産物が豊かに実るとされ、敗けた方は口惜しさの余り投石を始めるので、勝った方も応戦し、すさまじい石の投げ合いと乱闘になる。周囲の商店や民家は扉を閉め、見物だ。
柱建立の後、夜に入ってバイラブ神の供養が柱のすぐ横に立つ八角形の祠の中で行われる。ここで注目すべきは、バイラブ神像とともに“原初の米”といわれる一抱えもある卵状の作り物が祀られることだ。水牛、山羊などの供犠を伴って行われるこの祭祀は、作物の豊穣を祈るものだ。
さらに柱を倒す日、すなわち元旦の夕方には、バイラブ神とバドラカーリー女神の山車が寺院前に引き上げられ、ぶつけ合いになる。山車はぶつかっても壊れないような柔構造になっているのも、面白い。これは明らかにタントラ儀礼であって、男神と女神の交わりであり、世界の新たな展開と豊かな実りを祈願するものであろう。
ネパールの学者によれば、バイラブ神は天空であり、柱である。そしてバドラカーリー女神は大地であり、柱を建てるため地に穿たれた溝であるという。したがって柱建ての儀礼もまた、男女神の交合を示すものに他ならない。(注6])
こうしてビスケー卜祭は、天地の間のみならず世界=宇宙全体の新たな創造と円滑な運行を促す祭儀であると考えられる。