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せっかく人々の暮らしとともに残ってきたものなのだからここで終わらせてしまうのではなく、今住んでいる人達にもっと自信を持ってもらい次の世代に胸を張って受け継いでもらえるような環境にしなくてはならない。彦根市の掲げるまちづくりコンセプトのなかにもあるように、町全体として新旧を対比させ、なおかつ調和させていくことによって真のOLD・NEW TOWNを実現することができるのではないだろうか。それには、彦根はもっと古いものに対しての保全・修復をおこないそれらを保存していく必要がある。

さらに、先にも述べたように、魚屋町通りや足軽屋敷などの歴史的町なみとキャッスルロードとをうまく調和させ、対比させつつ彦根城と関連させて活用することを前向きに考えてみてはどうだろうか。今までの城下町は城は城、町は町というように別々のものとしての保存・修復がおこなわれてきた。城と城下町という周辺環境をとりこんだ保全というのは今までになかった試みである。それをおこなうことにより、彦根城からキャッスルロードを通り、魚屋町や足軽屋敷へという人の流れができるようになるのではないだろうか。

その中で重要なことは、道路の拡幅をやめ、できるだけありのままの生活空間を保ちながら保全することである。これによって人々の生活と歴史的生活空間の一体化がうまれる。そのため車については規制をする必要がある。彦根市は、市民病院を移転させることを決めているため、市民病院の跡地に駐車場を作り、周辺の町なみを崩さないように外観を統一することによって駐車スペースを確保することができる。歴史的町なみに住む人々の駐車スペースについては、すでに駐車場となっているところを町なみに合うように修景するなどして確保していく。こうしたことにより駐車スペースは確保され、景観の保全と現在の住環境の整備につながっていくだろう。

また、町なみの中に見かけられる空き屋についてはギャラリーや喫茶店などとして活用し、再生させていく。それは、彦根市で計画するのも良いし、地域の住民で何か休憩所みたいなものをつくっていくのも良い方法ではないだろうか。周辺環境を彦根市で整え、通りの町なみの方向性は地域住民で考えていくというのも生活空間としてこれからも生活していく上では大切かもしれない。それぞれの地域の特徴とアイデアを生かし、住民の参加できるまちづくりというのが理想的である。大変なことではあるが、住民が積極的に参加してこそ歴史的生活空間としての町なみの保全がおこなえるのではないかと考える。最近では、立花町が道路整備をおこなうという話があるが、立花町ではキャッスルロードのようにはしたくないという強い住民の意思があるようだ。きれいにはしたいが今までの古いものや生活空間を大きく変えるようなことはしたくないというのが住民の意見のようである。このように地域住民が町なみについて考え、生活空間としてどのようにしていきたいか、どのようにしていくべきかをかんがえることは、町なみ保全の次の段階へむかう大きな一歩となるのではないだろうか。

5-4-3 魚屋町通りの再生

魚屋町通りについてであるが、できるだけ早い段階での景観の保全をおこなうべきである。20年以上も経つとほとんどの町家や町なみが崩れ後から作り直すことはできなくなってしまう。今回調査をしたときには、江戸時代の民家であっても人が住んでおらず空き家になっているところがかなりみられた。このような状態になると家はすぐに朽ちてしまい取り壊すしかなくなってしまう。町家が多く残っているところでは、どこでも空き家になった町家を多くかかえているが、どのようにすればこのような事態を防ぐことができるかを考え、活動しているところもある。その結果として若手の芸術家や建築家に貸したり、喫茶店やギャラリーとしてうまく活用しているという例もある。せっかくキャッスルロードをつくり人を呼ぶという取り組みをしているのだから新しく作り直すのではなく、町家を再生させ活用する方法も考えてみるべきではないだろうか。

5-4-4 奥野邸の再生と活用

個人の自宅として残っている古い町家は、生きている町家である。そこに人が住んでいる限り、完全に保存する事はできないが、人が住んでいるからこそ町家は生き続けることができる。100年先、200年先には、町家はもう残っていないかもしれない。しかし、住む人が残したいと思えば必ず残っていくものである。町家に住むには多少不便なこともあるが、それを楽しんでこそ良い保存ができる。

現代の日本は、着るもの、食べ物に恵まれなんの不自由もなくなった。ブランド志向になり、グルメブームが到来し、人々は、次に住空間に対して興味を持つ時代が来るといわれている。このような昨今、古い町家の保存・修復・再生に対しても目がむきはじめ、関心を集めだしている。これは、一時的なブームではなく長い目でみていかなくては結果がどうなるか分からない。そのときに、この奥野邸を復原したコンピューターグラフィックが何らかの参考になれば、幸いである。

 

 

 

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