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4]「夏をむねとする」日本のすまいで、通り庭は家の中を涼しくするのに非常に有効である。ただしその反面、冬の寒さはひとしおである。けれども、いそがしくそこで立ち働く人にはその寒さはあまりこたえないし、この一段低いトオリニワの存在によって、床上を極端な冷気からまもる効果もあった。

5]裏庭の生活と表庭の生活とを、そのまま結ぶためにどうしても必要であった。町家では、ミセと裏にある商品倉庫の土蔵との連絡が大切だった。裏庭の生活の重みがうすれてきたあとにも、裏にある便所への汲み取り通路として、不可欠なものと考えられてきた。そのほかに、建てつまった町内の非常用の通路としての役割も見落とせない。

こうして、彦根の町家の中には、今でも通り庭型住宅がいくつか残っているのである立花町では、岡部家、旧福富家、杉本家、井戸家、安居家、立花町福祉会館がこれにあたる。むろん、新しいすまいへの革新が他方ですすむにつれて、時代の移り変わりとともに、通り庭に床を張り、ダイニングキッチンとするなど変貌を遂げつつあることも事実である。

3-1 町家の間取り

3-1-1 部屋の呼び名及び機能と位置

ミセノマ  いちばんおもての1段目に、道路に面してとられる部屋で、店として使われる部屋である。商売をしていない家でもミセノマと呼んでいる。商いをしている家などでは、現在、この部屋を機能上改造している家もあった。また、3列にもなる間口の広い家では、3列目には、ミセノマをとらずに茶室あるいは座敷として居住性を高めている(図3-1)。

ナカノマ  基本的には、トオリニワ、ダイドコ(台所)と密接な関係をもつ食事室であり居間である。通路であるトオリニワから家への上り下りは、このナカノマからである。また、直接外部空間に接しないため採光不足となり、昼間でも人工照明を必要とする場合が多い。チャノマやダイドコロと呼ぶ例はなく、ほとんどがナカノマであった。

ザシキ  表からみていちばん奥に置かれており、入り口からは対角線上に位置し、庭に面する部屋である。つまり、2列型の家では2列目の、3列型の家では3列目の、いちばん奥に置かれる部屋である。

床の間、違い棚、付書院といった座敷飾りがつけられており、儀礼的な部屋として使われる。また、この部屋に仏壇を入れる押し入れを設ける家もあり、ブツマとして機能する場合もある。座敷の外は縁とし、庭に面してエンガワ(縁側)を設けている。

家にザシキが2室ある家もあり、2階にもザシキを置く場合もあるが、座敷飾りの格や広さからみて、やはり、1階に置かれたザシキの方がより格が高く、接客を主とする主座敷的要素が強いとみられる。

ブツマ  仏壇が置かれており、ザシキやナカノマに接している場合がほとんどであるが、ザシキに仏壇を置く場合は、ブツマと呼ばずザシキと呼んでいる。

トオリニワ  トオリニワは、部屋ではなく、土足のままで表の道から主屋空間背後まで貫通している通路空間であるが、外部空間ではなく、あくまでも屋根や戸のある内部空間である。

かつては、すべての町家に通り庭がついていたが、現在では、上り下りの面倒なことや寒いため、床を張ってダイニングキッチンに改造する家が多い。しかし、調査した古い表構えの家では、まだ、通り庭を残している家がいくつかみられた。

ドゾウ  家のいちばん奥に位置し、土壁を厚く塗り回した防火構造の倉庫であり、火災から財産を守るためのものである。ふつう町家では1棟であるが、大きな家では数練を持ち、そこに入れておく物の種類から、道具蔵・米蔵・店蔵などと分かれている。

ニワ  高密住空間における緑化スペースであり、最奥に位置するニワと、2段目、3段目にとられるナカニワの2種類が存在する。

ザシキ・エンガワ及び便所・風呂といった水まわりに囲まれたニワは、住空間における不可欠な通風、採光、換気を確保するとともに、主屋と離れの隔たりをつくり、双方の住空間の独立性と連続性を実現させている。また、住スペースの質とは異なった空間の質をもっているわけであり、住生活の空き、つまり、精神的息抜きの場としての空間ともなっている。しかし、実際にはあまり手入れされていないのが現状のようである。(図3-2)。

 

 

 

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