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江戸時代の士農工商という身分制度のもとでは、町人は一番身分が低い位置にいた。しかし、実際は城下町において重要な存在であった。商業の発達にともない、町人の中でも富と財をもつ豪商があらわれるようになり、全体的な生活水準も上がっていく。そうした中で、町人に仕える者や徒弟になるものなどがでてくる。彼らが居住していた家がすなわち長屋で、このような関係が、今日の町家と長屋の違いとしてあらわれている。

2-4-2 表構えによる町家の分類

これまで述べてきた表構えのディテールによる分析結果から、彦根の町家を分類し考察する。まず、町家を階数から1階建、2階建にわける。調査では町家に3階建も確認できたが、その数が4件と少なかったので、タイプ分けの対象からは外すことにした。

1階建を平屋型とし、町家のほとんどをしめる2階建を軒の高さから、低二階町家型と高二階町家型に分類する。低二階町家型は軒高が約2間強で、高二階町家型は軒高が約2.5間から3間である。さらに、低二階町家型で2階壁面が塗籠で窓が虫籠のものを低二階町家虫籠型、2階壁面が真壁で格子のものを低二階町家格子型、それ以外の窓のものを低二階町家窓型とした。

高二階町家型では2階壁面は真壁のみであることから、格子があるものを高二階町家格子型、窓のものを高二階町家窓型とした。

以上により、彦根の町家は6種類を抽出することができた。これを、系統図であらわしたのが次の図2-27である。

平屋型  平屋は、2階がない家である。大屋根、1階庇があるが、その間はすきま程度である。したがって、袖壁や軒裏構造など表構えに特別なディテールをもつ家は少ない。建築年代が古い家が多い。

低二階町家虫籠型  虫籠窓は低町家にしかないデザイン要素で、虫籠がある家は2階壁面が塗籠になっている。この形は彦根の伝統的なもので、江戸期に建てられた家がほとんどである。1階開口部の格子や袖壁などが残っている家が多く、町家の質として良いものが多い。

低二階町家格子型  格子は細、中、荒、鉄と4種類あった。中でも格子・荒をもつ家は建築年代が古い。格子・細・中については江戸期から後の高町家にまで伝承しているデザインで、これをもつ家の建築年代は様々である。格子・鉄は昔、木の格子だったものを改造して、鉄格子にしたようである。2階壁面は、虫籠型に対して真壁になっている。

低二階町家窓型  軒の高さ、表構えのデザインは格子型と全く同じであるが、2階の窓がガラスになっているところで区別できる。以前は格子型だった家が、ガラスの普及により格子をはずして、改造したと思われる。

高二階町家格子型  2階に部屋がつくられるようになって、低町家から移り変わったのが高町家である。よって低町家にみられた塗籠や袖壁などのディティールをもつ家が少なく、唯一、2階の窓に格子が残っているのがこの格子型である。次の高町家窓型と同様、軒裏はせがい構造のなっているものがほとんどである。建築年代は明治から後である。

高二階町家窓型  建築年代は、高町家格子型に比べると比較的新しい家が移い。町家として、表構えにデザイン性がないので、一見長屋と見分けがつきにくい。2階の窓は大きくとってあり、中には枠が木のものもあるが、現在はアルミサッシになっている。

2-4-3 表構えによる長屋の分類

長屋は江戸時代から町人のもとで働く者たちの借家として存在していた。しかし、その数はまだ少なく、長屋が普及しはじめるのは大正時代に入ってからのことである。これまで表構えより町家と比較してきたが、町家との質の差が間口の大きさなどからはっきりあらわれている。しかし、長屋も町家と同じくいくつかの形に分類できる。

階数より1階建と2階建にわける、1階建を平屋型、2階建を軒高より高さが約2間のものを低長屋型、軒高が約2.5間から3間のものを高長屋型とする。

長屋は、町家と違って、開口部や2階壁面などにタイプ分けできるような要素がないことから、この3タイプに分類する。長屋には塀つき長屋といって、通りに面して1歩さがった状態で建てられている長屋に塀がついているものや、長屋のその他に分類した工場の寮などの社宅がある(図2-2)。どちらも、数が少ないのでタイプ分けの対象外とする。長屋を3タイプに抽出した系統図は次のとおりである(図2-28)。

 

 

 

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