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町家の間取りは日本中よく似ているといわれているが、表構えにおいてもこれが指摘できる。たとえば、格子や大戸、袖壁などはどこでも見ることができる町家のデザイン要素である。町人は物の物流にかかわる仕事なので、各地に出かける機会が多かった。良いデザインの町家を見たら、それを取り入れようと思ったはずだ。したがって、町家のデザインはどんどん伝播していった。こういった伝搬性と同時に、町の表構えには、その地域特有の土着的表現も多い。町家のデザインのおもしろさは、伝播した構成要素や地方特有の形が混ざりながら、その地域独特の形を形成しているところにある。江戸期から町家という建築様式は変わらないが、そのデザインは、法律による規制、新材料の発明や普及、2階の居室化などの利便性、流行や好みといった理由から、時代とともに移り変わっている。明治までは背の低い低町家が主流であったが、背の高さが高くなるにつれ、表構えを構成するデザイン要素も大きく変わってきたのである。

2-1-1-3 彦根の町家について

城下町建設当初は「当時の居宅にみる時は小屋懸の類なり、その中にも至て構はぬ人などは片屋根にて暮らせし人あり」(『彦根近郷往古聞図』)とあるように非常に粗末であったが、年を経るにつれて著しく向上していく。彦根市史によると、町家の住宅の規模は藩に規制されていて、形式的には梁行三間に統一されていたのだが、実際は付け下し間数を加えたのが梁行で、ほとんどが五〜六間であったようだ。梁行は住居の奥行きのことである。ふつう町家の間取りは3室型なので、梁行三間に統一されていたのかは疑問である。また、屋敷の間口は家屋の桁行と一致し、屋敷の表口いっぱいを間口とした平入り住居がぎっしりと建てつまっている状態であった。城下町建設当初は土地区画が十分されておらず、城下の各所には荒地が残っていたようである。しかし、年々、家屋敷が売買、譲渡あるいは割家されることによって、土地が細分化していく傾向がみられる。割家とは、家屋敷を分割売却し、軒役も分間口の大きさに比例して分割されることである。こうして細分化されていった町人居住区の土地区画にしたがって、町家は細長い短冊形をなすようになり、その平面構成は通り土間型をとるようになる。

彦根藩では、元禄6年(1693)藩令によって住居について細かな規制が加えられた。しかし、こうした禁制は厳正に守られず、町人の生活水準は徐々に向上していった。その一例として、町家の屋根葺き材料があげられる。彦根城下の町方の交通要路である中心街伝馬町では、享保年間から安永・天明年間(1716〜88)にかけて瓦葺きに移行した。本家はすでに瓦葺きになっても、付属家屋で裏借家はなお板葺きである場合がみられ、表通りの居宅・借家と裏借家の生活水準の差がうかがわれる。こうした瓦葺きの普及は、町方商業の発展にともなう町人の生活の向上が、その使用を可能にさせた。これは築城技術に系統をひく白壁で塗りこめる工法とあいまって、近世城下町の景観を形成した。

2-1-2-1 長屋の定義

「長屋」あるいは「長屋住宅」といわれるものは、数戸の住宅が並んで一棟として建てられている。住戸の配列形式で「連続建」ということもあり、ならんでいる住戸の数で、二戸建とか六戸建という。長屋は壁一枚で区切られ、壁や柱を隣同士で共有している。これに対し、町家は一戸一戸が独立し、屋根・柱は隣と別である。長屋と町家は、どちらも道に面しているので、一目見ただけではわかりづらい。しかし、この定義に従えば町家であるか長屋であるかは、簡単に区別できる。独立建(一戸建)であっても、長屋とほとんど同じく両側の住戸の壁がくっついている住宅があるが、そういう住宅と区別するため、壁一枚でつながっている本来の長屋を連棟住宅ということがある。戦後、長屋住宅を切り売りすることが多くおこなわれた。区分所有を決めた法律ができ、長屋を売買したり、分割して所有されるようになった。したがって、持家の長屋もあるが、元来、貸家住宅の形式である。長屋のような小さな住宅では、必ずしも四方に窓をとらなくても、室の開放性は確保できる。通りぬけ通風が必要な場合でも、風向きに合わせて前後だけあけておけば十分である。出入りのために道路に面する表側と、その反対側の裏が空き地(道路または庭)に面していれば、両側が完全に閉ざされていても間取りがよければ居住性はそう悪くはない。そういった意味で、長屋は都市住宅としては有利なタイプである。何層にも積み上げる鉄筋コンクリート構造がなく、住宅が木造を主としていた時代には、長屋住宅が都市住宅の主要な型のひとつになっていたのは当然だといえる。

 

 

 

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