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第1章 伝統的民家の残存状況と城下町の経年変化

 

土屋敦夫、三谷綾子

 

1-0 調査の目的と方法

1-0-1 調査の目的

彦根は城と城下町が揃って残っている、国内でも数少ない都市の一つである。幸運にも戦災に遭うことなく、現在でも天守閣や、内掘、中掘が見られ、近代の大掛かりな都市開発の手が伸びていないここ城下町彦根は、今もなお、その美しい姿を残している。

城下町・彦根の特色は、先にも述べたように、天守閣、内掘、中掘や堀の内外の御殿や櫓といった当時を偲ばせるお城としての姿。お堀にたたえられた水に、城内を彩る緑といった自然。そして、なんといっても城下に広がる町なみである。

しかし、近年における本町地区の開発(夢京橋キャッスルロード)などの都市開発、及び、道路の拡張、また、町家の老朽化による建て替えなどによって城下町としての姿は年々失われる傾向にある。伝統的な民家の老朽化や、現代の生活様式に対して不都合な点が多いことなど「住みやさ」の問題、観光地としての彦根の将来、生活上や商工業の基盤となる道路整備の問題…と城下町彦根は、多くの問題を抱えている。けれども、そのような問題の中ででも、彦根城と共にこの城下町は彦根にとって、大きな財産ではないではなかろうか。

本研究では、城下町彦根の伝統的町家を悉皆調査することによって、現時点での彦根市内の伝統的町家の残存状況を把握し、今後の都市開発、及び、町なみ家保存に役立てること、また、悉皆調査の結果と家屋台帳による建築年代を比較することによって、城下町の町並みが江戸時代から明治、大正、昭和と、どのような形成過程を経て、現在に至ったのかを考察することを目的とする。

1-0-2 調査の方法

調査の対象は城下町に点在する伝統的町家の調査範囲は天保7年の「御城下惣絵図」をもとに、城下町であった地域の通りを一本ずつ歩いてまわり現存する伝統的民家を抽出した。その際に、写真撮影及びカルテを作成し、民家の状態を記録していった。調査後、それぞれの民家について「御城下惣絵図」をもとに、それぞれの民家を身分的居住区の、1]武士居住区、2]足軽居住区、3]町人居住区、4]水主居住区、5]その他の5区分にわけカルテに記入していった。また、家屋台帳で建築年代が特定できた町家については台帳年代として、これもカルテに記入した。カルテの項目は、写真番号、世帯主名、住所(あれば旧住所も)、土地身分、間口寸法、1階及び2階軒高寸法、町家の改造度(5段階評価)、メンテナンスの状況(5段階評価)、町家の質(5段階評価)、調査年月日、台帳年代、聞き取り年代とその根拠、建築種別、屋根の材質、卯建の有無、むくりの有無、地棟の有無、袖壁の有無、軒裏の仕上げ、2階壁面の色、2階後室の有無、2階壁面の材質、1階、及び2階開口部の仕様、門、塀の有無、塀付平屋の妻入り、平入りの別、塗籠の有無とした。次の頁に使用したものと同じものを載せておく。(図1-1)また、縮尺1/2500の彦根市都市計画図に、今回調査した伝統的町家を建築種別ごとに色分けして記入する。更にその地図の上にトレーシングペーパーを2枚重ね、「御城下惣絵図」による身分的居住区ごとの境界線、および、台帳年代によって年代を特定した民家について、町家を年代ごとに記号化し、それぞれ記入し、数値やグラフといったデータを明示した。

 

1-1 伝統的民家の分類

1-1-1 身分的居住区の分類

前節でも述べたように、城下町彦根は計画的に建築された城下町であるため、居住区が身分ごとに分けられていた。本研究では、身分的居住区に着目して考察をすすめていきたい。そこで、天保七年の「御城下惣絵」をもとに作成された身分的居住区の区分地図を用いて、身分的居住区を以下のように分類する。

 

 

 

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