歴史は権力者に都合よく書かれています。大胆にいいますと、歴史は矛盾だらけ、穴だらけ、嘘だらけ。私はいま来年のNHK大河ドラマを一生懸命書いていますが、歴史の嘘とどう戦うかということで大変悩んでいます。来年は、関ヶ原の合戦からちょうど400年目。徳川初期のホームドラマを中心にやっていこうと思っています。前田利家は毎年候補になりますが、地元の方が神格化された立派な人で、みじんも悪いところがないという風につくりあげられています。こういう主役はいま流行らないのです。むしろ、自分と等身大といいますか、フーテンの寅さんのような共感とか親近感とかが大事になってきました。人間の魅力はひょっとすると人物の欠点の中にあるのではないでしょうか。欠点こそ魅力の根源ではないでしょうか。伊達政宗、徳川吉宗も劣等感があり、その劣等感とか欲とかを中心に人物を考えると、その人物の目標なり、輪郭がはっきりしてきます。
これは、観光にもいえると思います。北海道の陸別という町は、「日本で一番寒い町」と書いてあります。完全に弱みをセールスポイントにした。富山県の小矢部市の市長さんは建築士だったこともあって、東大の安田講堂やバッキンガム宮殿等と、そっくりな建物をつくった。また、近くの羽咋はUFOを歓迎する町です。面白いアイディアといいますか、知恵だと思います。
北陸三県は観光資源に恵まれています。文化的な史跡や仏像とか絵画が観光の目玉になっています。しかし、これらは観光資源としてつくられたわけではありません。結果的に観光の目玉になったのです。観光施設をつくるには百年とか二百年単位で考えないと、本当にいいものはできない。われわれは祖先が残した文化遺跡を子孫に伝えなければいけない。これは大事なことです。
北陸三県で注目したいのは古い日本。いわゆる慎みとか、奥ゆかしさとか、あるいは潔さ・気品・節度。ほかにも謙譲の美徳とか惻隠の情。わび・さびの文化もそうです。こういったものが民主主義と引換えにほとんど姿を消しつつあります。戦後の日本の50年は生活の向上だったと思います。しかし、ドラマの主役というのはいくら生活の向上といっても人生をもっていないとだめなんです。人生とは、個人の文化の集積、そうとらえたいと思っています。これは旅の1つの形ともいえるのではないでしょうか。観光立県、観光産業を振興させることは大事ですが、一方で人間の生き方の根底に関わる仕事をしているという意識があるべきだと思います。生活を豊かにしてやるのではなくて、人生を豊かにしてやる、そういう立場にあるということではないでしょうか。もう一つ、外国人に比べ日本人はホスピタリティが足りない。表現ができないといわれます。私は日本人の表現力を豊かにするには、演劇教育を少しやった方がいいと思います。これは、旅館の従業員の方々についても思っているのですが、相手の立場に立つということです。お客様とホテルの従業員を入れ替えて芝居させたら教育効果があります。やはり人と人との触れ合いをみんな求めているのであって、それは観光業という中ではホスピタリティに尽きるのではないかということを申しあげてお話を終わりたいと思います。