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基調鼎談

「温泉地とまちづくり」

コーディネーター:安島博幸

ゲストパネラー:竹村節子、麦屋弥生

 

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鼎談で厳しい意見が相次ぐ

 

【安島】戦後いろいろな温泉ブームがありましたが、現在は定着した流れと言えるのではないでしょうか。まず、北陸の温泉地の印象をお話しいただけますか。

【竹村】全体的に個人のお客様と女性のお客様に冷たい温泉地というふうに理解しております。しかし、実は夕べ湯涌温泉に泊まりまして、「湯涌は違うな」と感じました。宿の方の顔が見え、意思疎通もはかられ、宿の趣向もよく理解できました。それがまちづくりにも反映されていました。

【安島】やはり町並みとか文化的な面が組み込まれ、以前とはずいぶん変わってきていますよ。

【竹村】しかし、女性客に接する対応は冷たく、パンフレットをもらいに行っても、まともに対応していただけない経験が何度もありました。

【麦屋】いずれにしても家族や両親に紹介する温泉地としてはクエスチョンマークがつくようなイメージを持っております。実は全国の18才以上に実施した「行ってみたい旅行」についてのアンケート調査結果の第1位は、温泉旅行となっています。北陸の場合、不況の影響を受けているのと、女性対応という面でいいイメージが持たれていないのではないかという感じがします。

【竹村】いつまでたっても団体、男性、宴会型となっており、その辺にずれがあると思います。

【安島】ある意味では変わったのだけれども、出来上がったイメージが強いのではないでしょうか。

【竹村】イメージを変えるのに10年はかかりますよ。

【麦屋】旅館は要するに室内の文化です。室内だけの展開には限界が出てきて、屋外、つまり地域全体でも対応するようにしなければならないと思います。

【竹村】女性をターゲットに、好みとかニーズを真剣に考えていけば、経済効果はアップしていくと思います。家庭で財布を握っている人の8割は女性なのですから。

【安島】これからは高齢者も増え、2002年から公立学校が週5日制になります。週末には家族連れで来る可能性が高まります。問題は1世帯当たり旅行費用が年間で約30万円といわれておりますので、何回も来れるような料金設定とか仕組みを考えないとお客様は来ません。

【麦屋】石川県の温泉は、旅館のタイプがよく似てバリエーションがありません。多分、料金的にも高いのではないでしょうか。仲居さんのサービスはファミリー客や高齢者、女性客は必要のないものです。

【安島】例えば、最近のB&BやB&Rというようなスタイルを考えてもいいのではないでしょうか。

【竹村】お客様に対し、好みとか予算をもう少し選択できるような宿泊形態が出てきてもいいと思います。東北のある旅館チェーンで、近所の廃業した旅館を湯治場に改装したんです。これが1泊3700円で、朝食・夕食を注文形態にしたら、オープンして半年経たないのに好きな日の予約は取れない状況です。

【麦屋】いまは温泉地で旅館のおかみさんや青年たちによって、いろいろな取り組みが始められています。それらの取り組みが、もしかしたら魅力の1つを生み出すかもしれません。

【安島】いまそういう時代ですよ。オールタナティブ・ツーリズムといわれるものが、非常に増えています。グリーン・ツーリズムとか、エコ・ツーリズムもそうです。ちょっと視点を変えると、温泉の使われ方も大きく変わるのではないかと思います。

【竹村】これだけ国民の健康意識が高まると、いろいろな売り方もあると思います。だけど、一方では昔ながらのものも大事にする必要があると思います。最近温泉地らしいまちはほとんどなくなりましたね。

【安島】歩く温泉地の散歩マップにカロリーが書いてあるものがありますね。

【麦屋】草津ではおかみさんたちが地域の埋もれたお宝を探しつつ、「おかみさんお勧めマップ」をつくろうとがんばっています。また、湯涌温泉とか山中温泉でも、温泉街の風情みたいなものをもう1度復活させようと取り組んでいますね。

【竹村】やはり「らしさ」だと思います。みんな利便ばかり追求、まちに個性がなくなってしまいました。この間、有識者20人に「推薦する日本の温泉」を30カ所あげていただいた。上位は湯布院、草津、那須高原、それから乳頭温泉、自然への憧れが非常に強いですね。これからのテーマは、健康と癒しだと思います。それをどういうふうに提供するかがキーワードです。

【麦屋】ソフト・ソフトといわれるが、ハードも大切です。そのハードを生かすも殺すもソフト次第。行政のお金を生かすも殺すも民間、住民次第。まちが美しくないのは行政だけのせいではなく、住民のせいでもあると認識すべきです。もう1回一緒に手をつないでやっていくしかない。

【安島】旅館の話と、それを取り巻くまちの話を伺いました。本当のまちづくりは、そのまち以外のもっと周りの観光地とか、隣の温泉地とか、もう少し広げたネットワークとか連携というのが必要なのではないかと思っています。

 

 

 

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