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集客観光産業への脱皮を

 

井手正敬・西日本旅客鉄道(株)代表取締役会長

 

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TAPがWACという形で再スタートしました。その辺からお話をお聞かせください

井手 90年初頭、日本の観光をより一層振興する目的でTAPが始まりました。それがある程度成果を収め、今回のWACに発展した。その意義には、もちろん従来の観光立県的な側面もありますが、日本がいよいよ国際的に観光立国としてスタートしようという気概が含まれており、私は大変うれしく思っています。

私自身、政府の経済戦略会議の委員として、日本の21世紀における富をいかに作り上げるかという議論の中で、よその国の模倣でない特色を表に出せる産業、観光の重要性について主張してきました。これから世界的な大競争時代を迎える中で、観光を集客産業として位置づけ、国の富をそこから創造しようじゃないかと。そのためには何か特別なもの、差別化を図ったものをつくることが必要であり、ナンバーワンよりオンリーワンをめざすべきと申し上げた。観光産業は22省庁の国の機関にまたがり、市場規模は40兆円以上ともいわれるほどすそ野の広い産業ですから、国の大きな財源になると思います。

 

そのためには何をすればいいでしょうか

井手 今、観光のソフト・ハードいずれもこれからのあり方が問われています。ハードがそれなりに必要であることは論をまたないが、どの観光地も切り口が金太郎飴のような同じものになってはいけない。これからは何か違う尺度で考えていくべきです。つまり観光の頭に集客をつけ、他と差別化していくこと。例えば、JR西日本でいうと、JR西日本らしさが必要。これからの時代は「らしさ」を求めていくことが大切です。また、京都を例にとると、修学旅行のメッ力ですが、古い昔の寺社仏閣が沢山あるために、逆に胡座をかく結果となり、京都に行く修学旅行は最近少なくなっています。やはり、心のこもったサービスがないと観光産業はすたれるんです。

 

最近、観光の変化は大変著しいようですね

井手 今、観光に対するニーズは新しくなってきており、速やかな対応が求められます。世界の古い文物を見るとか異国の文化に接したり、また、自然への憧れも強まってきています。つまり、地球資源を収奪してきた20世紀から、エコロジーの時代といわれる21世紀へ、お客さんの観光の仕方はどんどん先に進んでいるようです。つい先日、JATAがアイルランド観光局からの招待を受けたのを機に、私もそのメンバーの一員としてアイルランドに行きましたが、人口が400万人弱のところに外国人観光客は600万人も訪れる。このことは、海外のお客さんが来やすいようにすることがいかに大事かを物語っています。なおかつ来て良かったと思っていただけるように、知恵をしぼらなけれないけない。日本は世界の人から奇異な目でみられ、特異な国として訪ねたい国の一つといわれております。しかし、実際に訪れる人は少ない。何故来ないのか。アメリカ人に聞くと、香港には行くけれども、日本は遠いという。何となく遠いとか高いとか皮肉られる感じがあります。海外からのお客さんを迎える側として、その辺を考え直さないといけません。

 

北陸WACでは何を期待しますか

井手 私の出身地は福井県若狭地方で、そこには特段の関心を持っています。また、JR西日本の主要路線は京阪神ですが、観光部門では北陸は山陰とともにドル箱です。それが、ロシアのタンカーから油が流出したためなどもあり、不景気でお客さんの入り込みに陰りが見えます。今回の会議を契機に観光振興ができればうれしい。ある調査によると、日本で1番住みよい県といえば富山県、1番住みたいところは鯖江市という結果をみましたが、北陸は日本人にとって精神的に安心できる地域です。人情もあるし歴史的なものも豊富。さらに食べ物もおいしい。まず来ていただいて、すべてを体験してほしい。ただ、北陸の人は自己主張をあまりしません。自分をPRするのが下手ですね。もともと北陸3県には強烈な個性があるわけで、広域観光にそごをきたさない程度に積極化してほしい。特別なことはしないで、平生の生活を見せればいいい。地域にアイデンティティがなければオンリーワンにはなりきれないと思うのです。JR西日本も低廉で快適な旅をお客様に提供できるよう一生懸命取り組んでいこうと考えております。

 

 

 

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