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I. はじめに

 

1. 研究の背景と目的

 

現在、台湾からの「北海道旅行ブーム」が起きている。北海道庁によれば、1998年度(1997年4月〜1998年3月)に、北海道へ来訪した台湾人客数は、対前年度比77.5%増の93,700人を記録し(表1)、さらに今年1999年1〜6月の間に90便もの直行チャーター便が就航するなどブームの衰えを見せていない。

台湾人客の急増は単に人数の変化だけでなく、旅行シーズンと来訪地域にも変化をもたらしている。1998年度の季節別台湾人客数は、冬季(12〜3月)が最多の33,700人であるものの、夏季(6〜9月)が29,900人で冬季の人数と大きな差はない。また、昨年度と比較した伸び率では、夏季が135.4%と倍以上となっている一方、冬季は65.2%増に止まった(表1)。

1998年度の地域別台湾人延べ宿泊者数では、従来からの旅行の拠点となる札幌市とゲートウェイの新千歳空港を抱える道央が最多で全体の過半数51.1%を占めており、次に道東が27.3%と続いている。しかし、前年度との比較では、道東及び道北は、道央と道南の伸び率を大きく上回る150%前後の増加となっている(表2)。

このような北海道への台湾人客増加の背景には、北海道と台湾の様々な組織による誘客活動の努力がある。本研究では、1995年4月から1999年6月までの約4年間にわたり実施された北海道への台湾人客誘致活動について、マーケティングの視点から考察する。考察の順序は、まず、デスティネーション・マーケティング戦略の意義と定義を述べた後、マーケティングの展開を3つの時期に区分をした上でその経緯を振り返り、最後に、マーケティング戦略の視点から台湾人客誘致活動を包括的に分析する。

この事例研究が、日本各地において台湾人客をはじめとする外国人旅行者誘致の促進に参考となることを願うものである。

 

2. 観光マーケティングの意義と定義

 

(1) 観光マーケティング

観光マーケティングとは、「企業その他の組織が観光客の観光行動実現にかかわるニーズを満たすとともに、事業目的を達成するような取引を実現する過程である」注1。「取引」とは、組織と観光客との間の旅行商品やサービスの取引を意味している。

地方公共団体や宿泊施設・テーマパーク等の民間企業等の組織(以後「観光組織」と称する)がそれぞれ行う誘客活動(集客活動)は、「観光マーケティング」である。特に日本各地への誘客活動を担う地方公共団体は、マーケティングに関する知識と実践が立ち遅れている傾向があり、海外からの外国人旅行客の誘致活動においても例外ではない。日本国内外で旅行客の誘致競争が熾烈化を増す今日、観光マーケティングのノウハウの活用が性急な課題となっている注2

 

(2) デスティネーション・マーケティング

本研究では、観光マーケティングの分野でも、「デスティネーション・マーケティング」を取り扱う。デスティネーションとは、観光関連業界においては、「旅行目的地」を意味する用語として慣用的に使われている注3

 

 

 

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