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論文の要約

平田真幸

 

現在、台湾からの「北海道旅行ブーム」が起きている。1998年度に北海道へ来訪した台湾人客数は、対前年度比77.5%増の93,700人を記録し、1999年1〜6月には既に90便もの直行チャーター便が就航するなどブームの衰えを見せていない。台湾人客の来道者数の増加の背景には、北海道と台湾の双方の観光組織による誘客活動の努力がある。

本研究では、1995年4月から1999年6月までの4年以上にわたる期間に、様々な観光組織が実施してきた誘客活動をマーケティング戦略の視点から分析する。

観光組織が行う誘客(集客)活動は、観光マーケティングであり、国内外で誘客競争が熾烈さを増す今日、マーケティングの効果的な活用が必要となっている。特に、旅行目的地を商品としてとらえ、目的地に所在する観光組織が実施する誘客活動がデスティネーション・マーケティングである。本研究では、デスティネーション・マーケティングの戦略における5つの要素を提示し、これらを分析の具体的な視点とする。

台湾マーケットにおけるデスティネーション・マーケティングの展開は、3つの時期に分けることができる。「マーケティングの立ち上げ」の時期(1995年4月〜1996年9月)は、EG(日本アジア航空)とJTA/TPE(日本観光協会台湾事務所)が九州から北海道へ重点誘客地域を切り替えてマーケティングを開始し、新たに開発されたツアーの販売実績が上がり始めた。「北海道旅行ブームの開始」(1996年10月〜1997年9月)の時期は、道観連(北海道観光連盟)が初の台湾ミッションを派遣し、北海道側によるホテル料金の引き下げ等によりツアー販売が促進され、EGの秋季の送客数が初めて冬季を上回った。「本格的な北海道旅行ブーム到来」の時期(1997年10月〜1999年6月)は、台湾の多数の旅行会社の北海道ツアー販売の参入が始まり、エバー航空(BR)、その後中華航空(CI)が、北海道へ直行チャーター便を大量に運航した。道観連は、来道台湾人客数のさらなる増大にともない、商談取引重視のプロモーションに方向転換した。

主にJTA/TPE、道観連、EGが、共同または単独でマーケティング戦略の策定と実践を行ってきた。しかし、結果的には、冬以外の北海道とその大自然を中心とした戦略に自然に集約されていった。また、商品造成、価格対策、流通チャネル、プロモーションというマーケティング・ミックスでは、北海道側セラーと台湾側バイヤーである観光組織がそれぞれの立場で力を発揮し、双方は強い補完関係にあった。

北海道と台湾の全ての観光組織を統合するマーケティング戦略は存在しなかった。しかし、4年間余り、JTA/TPE、道観連、EGは、それぞれの立場でリーダーシップを発揮したが、北海道と台湾双方によるマーケティングの展開で、テーマや主要観光魅力に一貫性が見られた。また、様々な観光組織が相互に力を合わせ、販売促進につなげる努力を行った。特にJTA/TPEは、デスティネーションとマーケットに精通しているため、道観連へのマーケット情報とマーケティングのノウハウの提供や道観連によるプロモーション事業の準備・運営等にあたり、コーディネーターの役割を果たした。デスティネーションという商品は、為替レート、マーケットや地元地域の経済状況等の外部環境に非常に影響されやすい。また、同じデスティネーションを売る他の観光組織が、予期せずにマーケティング戦略の転換を図ることもある。したがって、各観光組織は、自らの戦略の全てに固執することなく、これらの変化に対応できる柔軟性をもつことも重要である。

 

 

 

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