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研究と報告

 

当院におけるセデーションの現状と課題

患者の意志の尊重とチームによるケア

 

瀬戸ひとみ*  長澤 裕子*  大木 美朝*

 

はじめに

ピースハウスは、全病床数22床の完全独立型ホスピスで、あらゆる癌の終末期の患者が入院の対象となる。平均在院日数は約1ヵ月である。

ピースハウスの理念の中には、痛みなどの心身を悩ます不快な症状が緩和され、患者と家族が「その人らしく時を過ごすことができるように、患者と家族の希望する場において、全人的ホスピスケアを提供する」というものがある(表1)。そのために、医師、薬剤師、栄養士、医療ソーシャルワーカー、宗教家などで毎日チームミーティングを持ちながら、さまざまな症状の緩和に努めている。しかし、症状緩和が困難で、患者が耐え難い苦痛を体験している場合は、鎮静剤の投与によるいわゆるセデーションという手段をとることもある。

「苦痛」は、主観的なものであるが、その様子を「辛そう」と感じる医療者側の評価で、方針が決定される傾向はないか、そして、その決定に、「苦痛」を感じている患者自身の意志が欠落してはいないかという問題に、しばしば遭遇する。そこで今回、そのような懸念を抱いた事例を通して、今後の鎮静剤の使用という課題について検討したので報告する。

 

表1 ピースハウスの理念(一部)

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事例紹介(図1)

T氏 55歳 女性

53歳で子宮頸癌の診断を受けたが「癌になったのはしょうがないこと」と受け止め、その後、受診せず治療歴はない。転移の有無は不明である。28歳で夫と死別し、仕事をしながら2人の子供を育てた。子供は既に独立しており、一人暮らしのため最後は家族に迷惑をかけたくないと、当院に入院となった。T氏は自分の性格を、気丈で頑固と話し、長女は自由に生きてきた人と話していた。

入院時の主訴は不正出血、右下肢痛で、破行はあったが、車の運転はできるほどだった。入院前に使用していた鎮痛剤は、ロキソニン60?4錠のみである。

入院時にT氏の治療についての希望を聞いたところ、「自然がよい。痛み止めば増やしてほしいときには自分から言う。末期に暴れてもそれが自然なのだからそのままでよい。とにかく人間らしくいたい」と答えた。

 

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図1 事例

 

* ピースハウスホスピス看護部

 

 

 

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