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この6例中患者自身が「楽になった」と評価したのは5例であった。消化管閉塞の原因別ではA群6例中5例、B群6例中1例でスケールの改善がみられた。胃がんによる幽門狭窄の62歳の女性症例(#1)で、200μg/日で開始し、Grade3から2に改善し、患者自身も楽になったと評価し食事摂取が可能となり、400、600μg/日と漸増したものの1年2ヵ月間投与した例がある。膵がんの49歳女性症例(#11)では、多量の水様下痢が200μg/日ですみやかに有形便となり、持続皮下注入から12時間ごとの自己皮下注射に変更し外来通院が可能となった。なおオクトレオチドの投与とともに輸液量を減らした症例はなかった。

 

考察

ソマトスタチンは消化管ホルモンの一つで、ガストリン、セクレチン、血管作用性小腸ペプチド(VIP)などの分泌を抑制し、消化管からの水の分泌を抑制する。オクトレオチドは合成の持続性ソマトスタチンアナログである。近年オクトレオチドが、末期がん患者の消化管閉塞による症状の緩和に有用であることが報告されている1)〜4)。しかし保険適応は消化管ホルモン産生腫瘍であり、また薬価が高く、通常のがんでの使用は制約を受ける。まだ、その適切な臨床での使用についてのガイドラインはない。

自験例では、末期がん患者の消化管閉塞による嘔気・嘔吐に対して、オクトレオチドの有効例では全例200μg/日で効果がみられた。日本人の場合200μg/日が初期投与量として適当とする報告4)と同様の結果であった。消化管閉塞の原因別では、がん性腹膜炎で有効例が多く、幽門狭窄、Billroth I法吻合部狭窄、十二指腸への浸潤あるいは圧排、つまり上部消化管閉塞では有効例が少なかった。またオクトレオチドは難治性の下痢に有効との報告5)があるが、われわれも膵癌患者の多量の水様下痢がオクトレオチドによりすみやかに有形便に改善した例を経験した。したがってオクトレオチドの効果は、腸管での水の分泌抑制によるところが大きいことが考えられた。オクトレオチドは薬価が高いという難点があるが、当ホスピスへ紹介され入院される末期がん患者の多くは予後が短く、そのような患者の症状をすみやかに緩和するためにオクトレオチドはたいへん有用であると思われた。

 

文献

1) Khoo D, et al.: Palliation of Malignant Intestinal Obstruction Using Octreotide.Eur J Cancer 30A: 28〜30, 1994.

2) Riley J, Fallon MT: Octreotide in terminal malignant obstruction of the gastrointestinal tract.Europian Journal of Palliative Care 1: 23〜25, 1994.

3) Pandha HS, Waxman J: Octreotide in Malignant Intestinal Obstruction.Anti-Cancer Drugs 7 suppl.1:5〜10,1996.

4) 前野 宏:末期がん患者の消化器症状に対するオクトレオチド投与の意義。ターミナルケア6:357〜361, 1996.

5) Mercadante S: Treatment of Diarrhea Due to Enterocolic Fistula with Octreotide in a Terminal Cancer Patient.Plliat Med 6:257〜259, 1993.

 

第4回日本緩和医療学会総会、広島市、1999.6

 

 

 

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