日本財団 図書館


よく患者が医師や看護婦に恋してしまう、しかも医師や看護婦の側に全くそういう気持ちはないのに、一方的にそう思い込まれたりすることがあります。「あなたにスキがあったからよ!」などと言われそうですが、実は相手が自分のことを親密に感じていると思いやすい距離で仕事をしているからかもしれません。それだけになおさらプロとしての自覚が必要になるわけです。

 

言葉遣い

 

個人の距離ということになりますと、距離学という自分と相手との距離について研究する学問では、日本人の場合は例外的かもしれません。というのは、日本人の場合は、言葉遣いによって距離を置くという知恵があります。「わたし」「わたくし」「おれ」「拙者」とか、自分を相手との関係でどういうところに位置づけるかという単語がたくさんあり、その中で相手との距離を測りながら順々に近づけていくという知恵が発達しています。ただこれが急速に崩れてきておりまして、友達言葉でしか話せない。親子の間の言葉遣いも逆転している場合がある。某テレビ局でどう子供にお弁当を食べさせるかという番組があって、「子供がどう召し上がって下さるか苦心しています」というお母さんがいた。そのあとで、今度は夫の話が出てきて、「夫は何でも食べます」。その家族の中でだれがいちばん大事にされているか、敬われているか、その言葉遣いだけでもはっきりしたような感じがいたします。

言葉によって距離をおくことは私たちの身についてはいたのですが、それが崩れているということから起こってくる問題がいろいろあるのではないでしょうか。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION