また、看護婦も治りそうな患者、あるいは外科の手術をやったばかりの患者、その時の急性の変化に対しての関心は強いのだけれども、もう治らなくなり、亡くなるほかないという患者さんのところには行きにくいし、いつの間にか避けているといった状況でした。これは日本の病院でも最近まではまったく同じでしたね。ソンダースさんはそこに大きな不満を感じて、そのことを看護婦にも医師にもそれではいけないと要求したのです。
そのようなある日、以前からソンダースさんに理解を示していた一人の優れた外科医が「あなたは看護婦だからあなたの言うことを聞いてくれないと不満なのだろうが、がんの末期患者を見捨てているのは医師なのです。だから、あなた自身が医師になって、それを改革したらいいでしょう」と忠告したのです。ソンダースさんはそれから33歳で医師になることを決心し、38歳で医師になった。そして除痛の研究や臨床の研修を重ね、しかもそのあと近代的ホスピス、セント・クリストファーズ・ホスピスをロンドン郊外に設立し、世界のホスピス運動の先駆けとなったわけです。
ソンダースさんとしては、「時に癒す」ということに全力をかけるだけでなく、あるいは「しばしば和(なご)ませる」ことに力を用いるだけではなく、それも大事なのですが、「慰めることはいつでもできる」ということ、症状を軽くするためにいろいろな努力をし、さらに慰めることに力を尽くすことの重要性を主張し、実践したといえるでしょう。