「人生とは・・・」と言って、講義をする必要はありません。そんなことを言っても何もわかりません。
この時期の親や他の家族は、少々子どもが悪いことをしても、また大人に「バカ」などと悪い言葉をつかっても許してしまいます。例えば、子どもが親の頭をポーンと叩いたとします。ある親はそれでも笑って何もしないことがあります。このような親の態度は、子どもに対して「何をしてもよい」というメッセージを送ることを意味します。親は「いまはわからないから」と思っているのかもしれませんが、わかるようになってからでは何倍もの努力と労力が必要になります。この時期に「人生には制限がある」ことを教える必要があり、またそのことは子どもにとっても教わる最善の時期なのです。
b. 偽りの万能感
現在、学校で問題になっている学級崩壊の原因は、子どもたちのこの時期までさかのぼる必要があるように思われます。大家族であった時代には、親があまり教えなくても家庭内で、例えば兄弟姉妹同士で牽制しあい、社会には制限があることをトレーニングしあいました。しかし、いま、その年代の子どもをもつ親や教師たちの多くは、あまりこのようなトレーニングを受けていないようです。ましてやその子どもたちは父親不在の母子家庭のような環境で育ち、母子一体から抜けきれない状態で幼稚園や学校に入りますので、何をしてもいいような万能感をもっているのです。そして教師たちも似たような体験をしているがために、そのような子どもたちに効果的な介入をすることが困難です。私はこのような状態を“偽りの万能感”と呼んでいます。現代の若者に何をしてもいいような風潮があることが指摘されていますが、まさに、この時期に社会には制限があることを教えるのに失敗したからなのです。彼(女)らは、自立をはきちがえているのです。