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図21 放射能汚染レベル別にみた白血球増多症の頻度

 

(3) 造血器腫瘍について

 

計5例の造血器腫瘍を確認した。これらの中には検診で初めて見いだされた症例や、既に診断されている症例が検診対象となった例も含まれているが、いずれにしても頻度的には少なく、発症地域は一定していない(表7)。

注目すべきことは、白血病の4例はいずれも事故当時の年齢が2歳以下であること、さらに7〜10年の期間をおいて発症していることである。これが偶然であるのか否かを明らかにするには、同年代の造血器腫瘍発症頻度に関しての疫学調査が必要である。

 

(4) 血液学的異常と放射能汚染との関係

 

造血器腫瘍を含めて血液異常例の発現頻度と事故当時の居住地域の放射能汚染状況や現在の居住地域の汚染状況および今回の検診によるセシウム137体内線量との関係について検討した。貧血、白血球増多症等いずれの血球の数的異常頻度も放射能汚染の程度との間には相関が認められなかった(図20、21)。したがって、今回検診した範囲内では造血器への事故の影響は明らかでないといえる。むしろ前述した成長期にある生理的造血状態の反映、放射線以外の環境要因、経済的要因等の影響が優位であると考えられた。

造血器腫瘍については、5例中3例は5Ci/km2以上の汚染地域に居住しているが、今回のセシウム137体内線量の計測値はいずれも正常値範囲内であり、造血器腫瘍の発症との関連は明かでなかった(表7)。

 

4. 総括

 

チェルノブイリ笹川医療協力プロジェクトは、1991年5月より1996年4月に至る5年間、チェルノブイリ原発周辺の5センター(ウクライナ2か所、ベラルーシ2か所、ロシア連邦1か所)において、原発事故時10歳以下の児童を対象に主として被曝放射線量測定、甲状腺検診、血液検査の3項目の検診を実施した。その結果、5センター合計で約12万人の対象児童について上記3項目の検診データが得られた。それを総括すると次のとおりである。

1) セシウム137の体内放射線量については、性・年齢別および州別に検討されたが、性・年齢による違いはほとんどなく、また州別にはブリヤンスクがやや高くみえるが、中央値が100Bq/kgを超える地区は汚染が最も高いといわれるゴメリ州に多くなっていた。いずれにしても、大部分の子供は50Bq/kg未満で、この点では大きな問題はないといえるが、重要なのは事故直後の放射線被曝がどの程度であったかを調査することである。

 

 

 

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