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本プロジェクトで実施された事項を列挙すると次の通りで、その総経費は35億円に達する。

(1) 甲状腺超音波診断装置、血液分析装置、ホールボディーカウンター等を搭載した検診バス5台および受診児童の移動用バス10台の供与

(2) 検診バス搭載の機器と同様の診断装置各1式を5センターに供与

(3) 医療機器、医療用品、医薬品、試薬およびデータの保管・管理用パソコンの供与

(4) 技術指導と意見交換のために、広島大学、長崎大学、(財)放射線影響研究所等研究機関の専門家を派遣(約90回、延べ310人)

(5) 検診担当者の日本および現地における技術研修(13回、延べ130人)

(6) 被災地住民に対する啓蒙活動

(7) 検診結果の公表とワークショップ、シンポジウムの開催(住民対象講演会4回、ワークショップ6回、シンポジウム5回)

本プロジェクトは、旧ソ連時代に発足したこともあって、当然のことながら5センターは共通の機材、試薬を用い、統一のプロトコールによって検診を実施してきた。このことは、ウクライナ、ベラルーシ、ロシア連邦の旧共和国が独立して、独自の路線を強調するようになってからも継続されており、この点各センターで得られた検診データには相互比較性comparabilityが存在するということができよう。

ただし、本プロジェクトはもともと被災者に対する人道的支援を目的に開始されたものであり、検診対象児の選択は原則として現地の担当者に一任されていて、任意抽出的に選んだわけではないので、検診データについてはこの意味での偏りが存在しうることをつけ加えておきたい。

なお、5か年計画の本プロジェクトは1996年4月に終了したが、その後も5センターの自主的な検診続行を支援するために試薬等の供与が行われており、また3センター(ベラルーシの2センターとロシア連邦の1センター)においては国際がん研究機関などと協力して甲状腺がん罹患児の患者対照研究、甲状腺検診によるコホート調査、事故後の出生児の検診などを実施している。

 

2. 対象と方法

 

1) 対象

 

チェルノブイリ笹川医療協力プロジェクトの小児検診は、1976年4月26日から1986年4月26日までに生まれた子供を対象に、1991年5月から1996年4月まで、旧ソ連5地域の医療機関(センター)−ゴメリ州立専門診療所(ゴメリ市、ベラルーシ)、モギリョフ州立医療診断センター(モギリョフ市、ベラルーシ)、ブリヤンスク州立第2診断センター(クリンシィ市、ブリヤンスク州、ロシア連邦)、キエフ州立第2病院(キエフ市、ウクライナ)、コロステン広域医療診断センター(コロステン市、ジトミール州、ウクライナ)-で実施された(図1)。

検診は同一プロトコールの下で、同種の器材および試薬を用いて行われ、各センターを担当するスタッフの努力により、検診した子供の居住地は各センターが管轄する地域のほぼ全域に及び、検診延べ数は16万人に達した。

 

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図1 チェルノブイリ原子力発電所と5センターの位置(2重丸で表示)

 

 

 

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