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「世界を広げてくれた」体験

 

宗村 紀子(新潟大学医学部4年)

医学部4年の春休みというのは、学生生活の残り少なさを急激に感じる時期である。海外旅行をしたり、病院見学に行ったり、突如勉学に勤しむようになったりとその過し方は人様々であるが、結局は何かしら形に残る経験をしたいという焦りを感じているのである。私もまたそんな一人であって、このプログラムに応募したのはそんな焦りの予感からであった。

ところで、このプログラムの参加者を、国際保健関係のサークルに所属している元来この分野に興味のあった学生と、たまたま案内を見つけて参加した学生の二派に分類すれば、私は後者のたまたま派であった。このような場合、周りから見れば「運が良い」という、むしろややネガティブではないかと思われるような意味合いを込めた表現で祝福されるのだが、本人の心の内もまた同様であった。すなわち、参加できる喜びを上回る自分の知識不足への不安。しかしながら、それぞれのレベルでの感じ方でよい、というリーダー長谷川さんの言葉等の励ましもあって、国外研修組の目標の一つでもあった「肌で感じるフィリピン」を自分なりに体験することができたと思い、今は満足である。その点で、今回一緒に参加したメンバーの暖かさと、偏りのないよう広く見識を深められるようにとよく考えて作られていたこのプログラムに出会えたのは本当に幸運であった。従って、もし私と同じような立場の人がいれば、このレポートを読んで安心してほしいと思う。

さて、私のような国際保健初級レベルでは、その学び方としては、体験するもの全てをとりあえずそのまま受け入れる、という方法が取り易い。問題意識を抱くとか、日本との違いを比較検討するという域には達しないので、とにかく感じたことで印象的であったことを書いてゆきたい。

まず文化全般について。色々とあるが、一つ象徴的に思えたのはフィリピンの料理が辛くないこと。東南アジアの国なのに辛くない…それは400年近くにも及ぶ長い植民地支配の影響ではないだろうか。特にアメリカの影響は食に限らず、文化や社会機構にまで浸透していた。どこに行っても英語が通じ、お茶代りにコーラが出され、人々はフレンドリーで、女性の社会的地位の高さがやたら目につくのである。

加えて、キリスト教の影響も強く感じた。例えば、スモーキーマウンテンでNGO活動を指揮していたパルマさんの出身はスモーキーではない。宣教師である旦那さんの赴任に伴って来たのだが、彼女の活動を支えているのは神への信仰心であると語っていた。宗教心の薄い私にはそのような純粋さは理解しにくいのであるが、そのときの彼女の瞳の美しさは例えようもないほど美しかったのである。信仰心を持っている人の強さを目の当たりにした初めての体験であった。

ところで、マニラのJICA事務所で働く折田さんがよく話されるというエピソードとして、フィリピンでは社会の四割を貧困層が占めるにも関らず、八割の国民が「幸せ」と答えるという話があった。私は今回スモーキーの子供達の元気のよさや病院での付き添い家族の様子、タルラクでの住民を主体としたNGO活動の様子を見て、何となくその話が理解できた。これらに共通するのは家族やコミュニティーの絆の強さとその開放性である。思うに、それが他への充足感を生み出し、ひいては自己への充足感につながり、幸せを感じさせるのではないだろうか。

 

 

 

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