過去の経緯からみた結果、同地区の消化管寄生蠕虫の陽性率は大体25%前後であると判断されるが、これまで毎年陽性者に対する治療を実施するとともに、ウワンゴ診療所には抗蠕虫薬を供与しており、さらに技師の検査技術のレベルも向上しているので、この地区においても蠕虫の陽性率の減少傾向がみられているのではないかと思われる。特にこのウワンゴ診療所は以前日本大使公邸があった地区であることから、我々の調査団が毎年検診対象地区としていることもあって3年前から看護士1名、検査技師3名が増員され、現在は看護士3名と衛生検査技師6名が勤務しており、週に1-2回は医師の診察があり、また電気があるので過去に調査団が供与した遠心器および顕微鏡も常備されている。その他付設の産院には5名の助産婦が勤務しており、保健・医療施設としては比較的恵まれた条件となっている。
以下の各蠕虫症について、厚層塗抹法およびMGL法による検便成績について述べることとする。
a) 鉤虫症
中央アフリカ共和国における寄生蠕虫疾患のうち最も高率に見いだされたのが鉤虫症である。ケラ・セルジャン村では183名中70名(38.3%)、バンザ村では97名中34名(35.1%)、ウワンゴ診療所では厚層塗抹法による検便のみであるが203名中15名(7.4%)が鉤虫卵陽性であった。その陽性率はケラ・セルジャン村およびバンザ村では従来の集団検査の成績と大差は認められていないが、ウワンゴ診療所は昨年度の10.8%に比しやや減少傾向が認められている。陽性者に対してはコンバントリンの投与を行ったが、鉤虫症対策としては雨期と乾期の変わり目の年2回の投薬が好ましいと判断される。
b) 鞭虫症
鞭虫感染者はケラ・セルジャン村で183名中1名(0.5%)、バンザ村では97名中3名(3.1%)が検出されたが、ウワンゴ診療所では厚層塗抹法で1名の陽性者も見出されなかった。なおケラ・セルジャン村における陽性の1名はMGL法による検査で虫卵が証明されており、厚層塗抹法では陰性であったが、バンザ村の陽性者3名は逆に厚層塗抹法でのみ虫卵が検出され、MGL法では陰性であった。従って鞭虫症の診断のためには厚層塗抹法とMGL法の両法による検便が必要である。現地での厚層塗抹法による検査で鞭虫卵が陽性であった者に対してはサイアベンダゾールの投与を行い、MGL法で虫卵が検出された陽性者に対しては来年度にメベンダゾールあるいはサイアベンダゾールの投与を行う予定である。
c) 蛔虫症
蛔虫感染者は厚層塗抹法によりケラ・セルジャン村で226名中2名(0.9%)、バンザ村で97名中2名(2.1%)、ウワンゴ診療所では203名中3名(1.5%)が陽性であり、全体では526名中7名(1.3%)が蛔虫感染者であった。