日本財団 図書館


III. 小学校児童の血清疫学調査

 

―Kratie省およびKampong Cham省におけるメコン住血吸虫症の流行の南限の探索―

我々は、Kratieを中心としたメコン河流域の各小学校児童におけるメコン住血吸虫症の血清学的検査を1997年から毎年継続しておこなっている。昨年度までの調査地域は、北は Kratieの上流約40kmのKompong Krabeiから、南はKratieの下流約30kmの地点に位置するHanchey Leuまでの地域に及んだが、今回の調査では、メコン河の上流域と下流域の両方向へ調査地域をさらに延長することが出来た。上流域については、これまでは調査が全くおこなわれてこなかったStung Treng省の8つの地点での血清疫学調査が実現した。下流域については、メコン住血吸虫症流行地域のカンボジア王国における南限を決定することを目下の課題としているが、今回はKratie省の南部に位置するChambokおよびBang Rey、そしてKampong Cham省・Kampong Cham市街から5km上流のThamar Kolで血清材料を採取することが出来た(各地点の位置は、図1参照)。血清検査の方法は前回の調査と同様に、小学校児童の静脈より採血し、その血清をProvincial Health Officeの検査室で分離した。この血清は獨協医科大学医動物学教室に持ち帰り、日本住血吸虫の虫卵抗原を用いた酵素抗体法 (ELISA法) による抗体検査を実施した。

上流地域に向けての各調査地点(Stung Treng省の8地点;各地点の位置は、図1参照)での血清検査の陽性率は、以下の通りであった。

―Kam Phoun:10.4%(48;検査例数、以下同じ)・Sdau:89.1%(46)・Veal Ksach:0%(35)・Hang Khosoun:7.2%(69)・Kaing Cham:45.8%(48)・Pchol:5.0%(40)・Koh Preah:4.4%(90)・Siem Bok:11.4%(44)―

SdauやKaing Chamでの陽性率が際立って高かったのを除けば、軒並み10%以下という低い陽性率であった。メコン住血吸虫の中間宿主貝(Neotricula aperta)は、餌となる藻類が繁茂しやすい岩場を好んで生息することがわかっている。今回の調査地域周辺におけるメコン河の底床には砂地が広がっていたことから、中間宿主貝の生息には適しておらず、従ってメコン住血吸虫がヒトヘ感染する頻度も比較的低いと考えられる。ところで、高い陽性率を示したSdauは、メコン河本流から支流に沿って遡ったところに位置し、多数の岩場が存在する地域であった。これまでの血清疫学調査はすべてメコン河の本流域に沿っておこなってきたが、Sdauでの調査結果は支流域でもメコン住血吸虫の感染が頻繁に起きていることを示しており、今後は各支流域におけるメコン住血吸虫症の流行状況も調べる必要が出てきた。メコン住血吸虫症は必ず中間宿主貝を介してヒトヘ感染することを考えると、本症の流行状況を調べるに当たっては、中間宿主貝の生息状況や感染状況の把握が必要不可欠である。しかしながら、水量が非常に豊富なメコン河本流域では、時季によっては水位が数メートルから10数メートルにも及ぶために河底に棲む貝の生息状況を調べることはたいへんな困難を伴い、事実上不可能である。そこで、本流と比べれば川幅が狭く水量も少ない支流域における低水期の調査によって、中間宿主貝の生息状況や感染状況についても詳細な情報が得ることが出来れば、終宿主であるヒトの血清疫学調査結果と関連づけて考察するうえで格好の調査地域となる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION