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この流域での本年度の調査は5月の初旬に実施されたが、既に雨期が始まり水量が増加していたために、残念ながら中間宿主貝の生息調査は極めて困難な状況であり、数ヵ所に貝の存在を確認したにとどまった。次回からは、低水期を選んで調査を実施して、中間宿主貝に関する調査にも精力的に取り組んでゆきたい。支流地域におけるメコン住血吸虫症の全容が明らかになれば、例えばヒトに対してマストリートメントを実施した場合、それに伴って中間宿主貝の感染率がどう変化してゆくかなどを調べるのに有効なモデルケースとしての期待も高まる。

カンボジア王国におけるメコン住血吸虫症流行地域の南限の決定を目指して実施したKratie省およびKampong Cham省の3地点における調査結果は、それぞれChambokでは7.5%(80;検査例数、以下同じ)、Bang Reyでは4.9%(81)、そしてThamar Kolでは1.1%(90)の陽性率となり、この地域においてもごく少数ながら陽性例が検出される結果となった。本症流行地域の南限の決定は、来年度以降の調査における課題として残された。

 

―Stung Treng 省おける血清疫学調査―

1997年度から本年度までの調査結果を図1・2、および表1に示した。また、今回実施したStung Treng省の8地点における血清疫学調査については、それらの位置・人口そして中間宿主貝の生息状況などと合わせて表2にまとめた。現在のところ、Stung Treng省の上流域およびメコン河の支流であるTonle Kongの上流域は未調査ではあるものの、これまでの調査の成果として、カンボジア国内のメコン河に沿ったメコン住血吸虫症の流行状況の全体像が次第に明らかになってきた。すなわち、メコン住血吸虫症が水棲の貝に媒介されるという特徴を反映し、各調査地域における本症流行の程度はその地域におけるメコン河の川底が中間宿主貝の生息環境として適しているかどうかに強く影響されている状況が浮き彫りとなった。ヒトの血清疫学調査からは、特にKratie省における流行が最も規模の大きいものと推測しているが、この地域のメコン河の川底には貝の好む岩場が広がっており、中間宿主貝の生存も確認している。

感染早期のメコン住血吸虫症に対しては、駆虫薬であるプラジカンテルが著効を奏する。しかし、長期にわたって繰り返し感染を受けるなどした結果、病態が慢性期に移行して腹水貯留や肝硬変を併発した患者では、プラジカンテルの効果もほとんど期待できないために、本症対策においては早期発見と早期治療が非常に重要である。今後とも、この寄生虫症に関する疫学的な知見をさらに積み重ねていくと同時に、精度の高い検査法を野外での調査に適用するなどして、その結果に基づいた適切なコントロール対策が一刻も早く開始されることが強く望まれる。

 

 

 

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