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3. 考察及び展望

 

A. 各村落の小学校児童のELISA陽性率

表16の各村落の小学生のELISA陽性率についてみるとIgG抗体ではMalabo 71.3%、San Narciso 39.8%、San Pedro 34.1%、Poblacion III 10.9%と有意の差が認められるが、IgM抗体については各々5.7%、4.2%、3.0%、8.8%であり、著明な差異は認められなかった。

 

B. 各村落の1999年の受診患者の超音波画像所見別実数及びその百分率

表17、表18、表19の各村落の1999年の受診患者の超音波所見別の比率をみるとSan Narciso及びSan Pedroの男性患者においてType3を呈する者が多い傾向がみられる。この事実は表16の現在の各村落の小学校児童のELISA陽性率をみるとSan Narciso及びSan PedroはMalaboよりも低値であるが、以前はMalabo同様に高値であった可能性を示唆するものかもしれない。

 

C. 1996年〜1999年の期間内に超音波画像がType1、2からType3に変化した患者群

表20に1996年から1999年までの調査期間内に超音波画像所見がType3に悪化した患者群を示したが、13歳の男性から73歳の女性までで平均年齢は48.0±16.6歳であった。大竹によるとミンダナオ島の南アグサン州及び北スリガオ州の3小学校の児童の超音波検査で3名の9歳児(男児1名、女児2名)にType3の病変を見い出している。この事実より10歳以下でもType3のNetwork patternを呈することが判明したが、ミンドロ島においては10歳以下の小学生のType3の症例は現在までのところ見い出されていない。

 

D. 1999年の検査でType3を呈した患者のうちの悪化群と不変群

表21から年1回或いはそれ以上のプラジカンテル治療を受けている患者でも悪化している症例が存在する事が判明した。本調査地域のように再感染の機会が多いところではプラジカンテル治療の頻度について更に検討が必要と思われる。また、ELISAは陰性であっても肝臓病変の超音波画像所見が悪化している症例も散見されるのでELISAのみで本疾患のmorbidityを判定することは適切ではないと思われる。一方、不変群について見るとNo.104の患者の様に1991年以降15回の治療を受けている症例でもType3のNetwork patternに変化が見られないことより、プラジカンテル治療では既に形成された肝の線維化は改善しない事が確認された。

本年度は1996年よりの3年間の超音波画像の変化を高度、中等度、低罹患率村落別に検討したが、罹患率別の村落で比較することよりも個々の患者の感染/治療/再感染/再治療の詳細な調査検討が重要だと思われた。今後の方針、展望としては1996年以来超音波検査を継続して受けている患者に焦点を絞り、より詳細な治療歴、再感染の頻度と超音波画像の解析を行い、フィリピンの日本住血吸虫症における肝臓病変の発現/進展機序の解明を試みたい。

 

 

 

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