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貯蓄

 

1 10年前は貯蓄率が非常に高い日本であったが、今日では欧米諸国との差は縮小している

図1

従来から欧米諸国と比較して日本人の貯蓄率が高いとされ、その理由もさまざまな指摘がされていた。代表的な考え方は(1)老後に備えるため、(2)住宅取得のため、(3)万が一の備え、(4)子孫に残すため等々であるが、年金制度や健康保険制度が整備されてくると、老後や緊急時の備えのために多額の貯蓄をする必要性が薄れてきた。また、家族の規模が小さくなるとともに、教育費の負担が大きい現在では、子孫のために残すという動機も以前ほどは高くはなくなっている。

日本における住宅価格は欧米諸国と比較すると高いのでそのための蓄えも必要になるが、最近のように子供が少ないと住宅取得のためという動機にも大きな伸びを期待できない。高齢化が進展し、貯蓄を取崩す世代が増加するにともなって、日本においても貯蓄率は減少傾向にある。

なお、貯蓄は金融資産のみならず、土地や住宅のような実物資産の形で保有したり、自動車等の中古市場の発達している耐久消費財の形で保有したりするので、国際比較の場合にはこれらの事情にも留意しておくことが重要であろう。

(資料と注意事項)『国民経済計算年報』(経済企画庁)

家計部門の貯蓄率を比較するには家計における収入と支出を調査したものを比較するのが通常であるが、調査精度が国によって大きく異なると言われているため、通常はマクロの貯蓄率、あるいは国民経済計算による貯蓄率と呼ばれるもので国際比較を行う。各国の国内総支出等を求めるための推計方法が標準化されているため、国際比較が容易である。貯蓄率は以下のようにして求められる。まず、家計部門で1年間に生み出した可処分所得を推計し、その中で消費支出に回るものを推計する。それらの差額を貯蓄とし、可処分所得に対する比率を貯蓄率とするのである。

 

2 老後に備えた貯蓄率の高い日本

図2

世帯主の年齢階層別に貯蓄率を比較すると、国による違いが大きい。アメリカは全般的に貯蓄率が低いが、45-54歳のところでは10%を超える。しかし、65歳以上では貯蓄の取崩しが見られる。50歳半ばまではドイツの貯蓄率は日本より高く、年齢が高くなるにつれて減少する。日本では45-54歳のところの貯蓄率がアメリカより低くなり、教育費や住宅ローンヘの支払の大きさの影響を受けている。しかし、55-64歳では貯蓄率が回復し、退職年齢後も他の国と比較すると高い。

一般に、日本の世帯に関する貯蓄率のデータはわかりにくい。勤労者世帯については詳細な値が示されるが、世帯主年齢が65歳以上の勤労者世帯は少数派である。大多数は退職した無職世帯である。最近になって無職世帯に関する家計収支も調査されるようになり、高齢者の状況も把握されるようになった。しかし、高齢単身者は別のグループとして値が示される。また、自営業世帯については収入調査をしないので、これらを総合した値を調査結果として示すことができないのである。

ドイツと日本の貯蓄率を比較すると、図1のマクロの貯蓄率とは異なって図2ではドイツの貯蓄率の方が高い年齢階級が多い。これは1で述べた調査精度の違いによるところが大きい。なお、貯蓄は可処分所得から消費支出を差し引いた残りなので、銀行や郵便局に新たに行った預貯金だけではなく、有価証券の購入、生命保険料の他、「タンス預金」も含まれることに注意して欲しい。

(資料と注意事項)アメリカ『1994-95年消費者支出調査』、ドイツ『1993年家計収支調査』、日本『1994年全国消費実態調査』

ドイツの65-については65-69歳。日本の55-64歳、65歳以上については、以下の仮定に基づいて推計したものである。(1)働労者世帯と自営業世帯の貯蓄率は同等、(2)単身高齢者の貯蓄率は2人以上無職世帯の貯蓄率と同等。

 

 

 

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