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2) 里山と都市のコミュニティ

 

(1) 地域型杜会としての狭山丘陵

急速な都市化の波に洗われてきた狭山丘陵では、地域の社会構造も大きく変りつつある。都心に近い丘陵の東側や南側では麓まで宅地化が進み、そこに暮らす人びとのコミュニティはそれまでの地縁・血縁関係とは全く異質の性格をもたざるを得なくなっている。一方、丘陵の北側や西側の地域においては現在も畑作を中心とした農業がさかんである。入間市や瑞穂町にはかつての里山景観がのこされている地区もあり、ごく一部ではあるが里山の[有機産物]を利用した農業が営まれている。

このように、狭山丘陵周辺の生活用式は、従来の里山依存タイプから地域内経済依存タイプ、さらには地域外経済依存タイプに至るまで幅広い範囲にわたっており、それぞれが互いに協調や干渉を繰り返しながら外見上は整然とした社会を形成しているようにみえる。これを仮に[地域型社会]とよぶことにしたい。

[地域型社会]における里山の位置づけについては、住民を対象に実施した意識調査の結果に要約されているように、年齢や職業の枠を超えた意識の高さをうかがうことができるものの、具体的な里山とのかかわりを望む声はまだ少ない。こうした側面に里山の自然をめぐるさまざまな課題があることは、それぞれの項目において提起したとおりであるが、里山景観の保全や里山管理の推進を実現するためには地域にしっかりと根をおろした市民運動の展開が不可欠である。そして、農業振興や地場産業の復興をも視野に入れた里山再生の成否は[地域型社会]の活性化に委ねられているといっても過言ではない。

 

(2) 都市型社会と里山の自然

都市には、現代社会が抱える難題が山積している。最近は人口の高齢化が進み、福祉や介護への期待と不安が交錯するなかで、都市住民の関心が生涯学習に対する意識の高揚、自然や里山景観への郷愁といったかたちで顕在化しているのも事実である。また、少子化による若齢人口の減少は、屋外の遊び場を失った子どもたちをますます自然から引き離す結果となり、遊びを通じて築いてきた子ども同士の交流さえも希薄になろうとしている現実がある。

このような一面をもつ都市住民の暮らしを[都市型社会]と捉えるならば、里山の自然や文化を介して[地域型社会]との交流を図るという試みは、それなりに意義のある取り組みと考えられる。図II-2-6はそのようなモデルの1例を示しており、[地域型社会]と[都市型社会]の融和を基本とした地域づくりをめざしたものである。その接点をつなぐのは地域間交流や世代間交流、市民運動を主体としたボランティア交流等の横断的な交流組織であり、さらにこれらの交流組織をつなぐパイプ役として里山の文化財、伝承文化、伝承遊びの活用を想定している。

 

 

 

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